おとり クリスティ・オパラ刑事 |
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作家 | ドロシー・ユーナック |
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出版日 | 不明 |
平均点 | 5.50点 |
書評数 | 2人 |
No.2 | 5点 | クリスティ再読 | |
(2024/07/02 12:15登録) 評者間違って「クリスティ・オハラ(O'Hara)」と憶えてた...ニューヨークの婦人警官って言うんなら、アイルランド系だろ、って決めつけてたんだな。ホントは「オパラ(Opara)」で、本人はギリシャとスウェーデンのハーフ、殉職した警官の夫の姓でこれはチェコ系、義母ノラと同居でこのノラがアイリッシュ。エスニック面でかなりややこしい。 さらに言うと婦警さんとはいえ、87みたいな所轄署ではなく、地方検事局特別捜査班という地方検事直属の手駒みたいな立場だ。だからボスのDA、ケイシー・リアダンとの人的関係が密接....今回の事件では大学でのLSD取引を摘発のための潜入捜査を、地下鉄で見かけた変質者逮捕で棒に振ったオパラがこのリアダン検事にドヤされる、のが幕開け。間奏曲的な事件を挟むわけだが、それに駆り出されるオパラとしては、タダの組織の歯車的な仕事が続いてモヤモヤしたりもする....でもね、オパラの家に毎夜かかってくる不審な男からの電話をきっかけに、オパラは重大な事件の関連に気づく。 オパラはリアダン検事に報告して、自ら「おとり」の役目を買って出る... こんな話。手堅い警察小説で、重厚というか、心理描写が細かくて比較的「ブンガク」系の読み心地の小説。まだから謎解き的な興味はない。筆致もマクベインみたいな洒落たところはなくて生真面目、訳文もやや生硬。「地味系警察小説」と言えばまさにそうで、この頂点がこの人「法と秩序」なんだなあ。 (ややバレ) 犯人逮捕からポケミスで30ページほどあって、これが「おとり」を演じたオパラのPTSDのエピソード。それをきっかけにぐっと近づくボスとの関係..オパラ三部作って言われるけど、リアダン検事との成り行きが気になる、といえば気になる。 |
No.1 | 6点 | 人並由真 | |
(2021/07/15 06:44登録) (ネタバレなし) 1966年春季のニューヨーク。地方検事局の特捜班に所属する二級刑事で26歳の婦警クリスティ・オパラは、ひと月の準備期間を費やしたLSD流通犯人の捕縛作戦に向かう途中、地下鉄で不審な男が制服の小学生の女子2人に接近するのを目撃。放置することもできずにその男を逮捕してその騒ぎのなかで、特捜班の重要な作戦に遅れてしまう。特捜班を率いる切れ者の40歳の地方検事ケイシー・リアダンは、クリスティの事情を一応は了解するものの、同時に冷徹に、彼女の隙を指摘した。その頃、NYでは、謎の殺人鬼による連続レイプ殺人事件が横行。クリスティの旧知の殺人課刑事ジョン・デヴローはこの事件を追うが、やがて同事件は意外な形でクリスティと特捜班にも関わりあってゆく。 1968年のアメリカ作品。 元・実際の婦警で警察小説・女性刑事(婦人警官)ものの、先駆あるいは中興の祖といえるドロシー・ユーナックの処女長編。女性刑事クリスティ・オパラシリーズの第一弾。本作でMWA新人賞を受賞している。 評者はユーナックの作品は、大昔の少年時代に『捜査線』を一冊、読んだっきり。なんでそれを昔、選んだかというと、代表作『法と秩序』はあまりに大冊だったし、今回読んだクリスティ・オパラシリーズは、どうもシリーズものとしての敷居の高さを感じたから。その意味では『捜査線』は単発もので、紙幅もそんなになかったしね。同作の細部はおろか内容もほとんど忘れているが、どういう主題でどんな後味だったかは、ウン十年経った今でもなんとなくうっすらと覚えている。 それでようやく最近になって、このクリスティ・オパラシリーズを読んでみたいなと思ったが、家の中からはシリーズ2・3作の『目撃』『情婦』は出てくるものの、初弾の『おとり』が見つからない。もしかしたらまだ買ってなかった? かと思い、webで古書を安く購入して、到着後すぐ読んでみた。 なお現状ではまたAmazonにデータがないが、ポケミス1127番。昭和45年10月31日刊行。訳者は鹿谷俊夫という人。 前述のようにユーナックは『捜査線』一冊しか読んでないものの、当時からかなり筆の立つ作家だという印象はあったように思うが、実際、予想通りに、いやそれ以上にリーダビリティは高く、話はサクサク進む。 本作はいわゆるモジュラー型の警察小説ではなく、 ①クリスティが在籍する特捜班 ②クリスティ本人の家族(亡き夫マイクの忘れ形見の男子ミッキー、そしてマイクの実母でクリスティの義母、しかし本当の親子に負けない絆を感じあう初老の未亡人ノラ) ③カットバック手法で、その犯行が描かれる連続殺人鬼 ……この3つのストーリーの流れが、大きな幹となって物語が進む。 まあ21世紀の今では、ドラモンドの『あなたに不利な証拠として』あたりをひとつの頂点? として、婦警もの・女性刑事もののもミステリ界全般に浸透・成熟しているわけだろうし、普遍的な新鮮さという点での勝負などはしにくいのだが、一方で本作には、丁寧に細部を書き込んだリアル派警察小説ならではの、時代を超えた骨太さを感じさせる部分はある。 小説的な旨味としては、とある着眼点から真犯人に迫ったと確信し、手柄を立てられると思ったクリスティが直面する<思わぬ事態>など、いかにも……な感じでオモシろい。 たぶん作者の実体験に基づく? リアルな描写であろう。 全体としては期待通りに楽しめたが、実を言うと一方で、ミステリとか警察小説というよりは、(中略)という意味で「あれ、やっぱり、そっちに行っちゃうの?」という部分も無きにしも非ず。 あんまり詳しくは言えないのだけれど<ソコらへん>は、良くも悪くも? 半世紀前のエンターテインメントなんだよね、という感触もあった。 まあ、改めて、安定して他の作品も楽しめそうな実力派作家だとは思うので、そのうちまた、翻訳が出ている本シリーズ、あるいはノンシリーズの未読のものを手にとってみたい。 |