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ミステリの祭典

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廃墟ホテル

作家 デイヴィッド・マレル
出版日2005年12月
平均点7.00点
書評数2人

No.2 6点 八二一
(2023/06/24 20:11登録)
うち捨てられた廃墟を専門に探検するクリーパーと呼ばれる人々を材にとったところがなんともユニークな本作だが、ホラーサスペンスの文脈が、後半サバイバル調になるあたりのサービス精神もたっぷり。
作者がランボーの生みの親であることをふと思い出させてくれる展開も楽しい。

No.1 8点 Tetchy
(2013/01/31 22:49登録)
バングラデシュの密林など世界の自然を舞台に冒険・スパイ小説を繰り広げていたマレルが21世紀に選んだ冒険の舞台はなんと廃墟。資金難で打ち捨てられたホテルやオフィスビル、デパートに忍び込む。

まさか廃墟探索がこれほどスリリングだとは思わなかった。暗闇に巣食う動物たち。不衛生的な環境で育ったそれらは攻撃的でもあり、傷つけられると病原菌に感染してしまう。さらに長年風雨に曝され、老朽化が進み、床が突然抜けたり、階段が崩落したり、思いもかけない危難が待ち受けているのだ。そんな状況で機転を働かせて仲間の救出を行うところなど、手に汗握るスペクタクルになっている。機能を失った建物が未知なるジャングルの如き迷宮に見えてくる。
そんな危険を冒してまでも廃墟侵入を止めないのはそこに魅力があるからだ。当時の時間を体験することが出来るからだ。原作者のあとがきによれば彼らのようなグループは世界中に実在するとのこと。いやあ、マレルは実に面白い題材を見つけたものだ。

そして挿入されるかつての宿泊客たちのエピソードも興味深い。亡き夫と思い出のために訪れ、自殺する者。ホテルに荷物を残して失踪したまま行方知れずになった者。不治の病に侵され、最後の記念にホテルに泊まり、自害する者。

そして物語は暗闇の中の廃墟探索という冒険物から不測の訪問者である窃盗グループによる拘束を受けるというサスペンス物に変わり、さらに廃墟のホテルに住まう異常殺人鬼の登場で次々と仲間が殺されていくホラーへと転調していく。
『ダブルイメージ』ではあまりに物語の転調が激しく、読後はなんといったらいいか解らないほど戸惑いを覚えたが、本作では舞台設定が廃墟と固定されており、その不気味なムードが冒険、サスペンス、ホラーを包含しているため、上に書いた物語の転調が非常にスムーズで、逆に先の展開に好奇心が募る思いがした。

正直云って本書は私が今まで読んだマレル作品で一番面白い長編となった。作家生活30年以上も経って物語力の感じる作品を生みだす、まさに円熟味のなせる業か。前回読んだ短編集『真夜中に捨てられる靴』でも感じたが、マレルは21世紀になって作風がガラリと、しかもいい方に変わった。これほど味が出るとは思わなかった。
こうなると近年発表されたマレルの作品が実に気になる。マレルの未訳作を訳出してくれる寛大な出版社はないだろうか?

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