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ミステリの祭典

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殺人者にダイアルを
大学生探偵団

作家 梶龍雄
出版日1980年09月
平均点4.50点
書評数2人

No.2 5点
(2021/05/11 10:54登録)
 夏も盛りに近づいた七月二十三日、旧軽井沢の由緒ある旅館で将来を嘱望された福富銀行新宿副支店長・間宮信夫が急逝した。死因は青酸カリによる服毒死。銀行協会会長の息子という血筋に恵まれ、優秀な学歴をも併せ持つ三十三歳のエリート銀行屋(バンクマン)がなぜ突然自殺したのだろうか?
 その三日後の七月二十六日、新宿区北新宿一丁目の木造アパート "柏木荘" 十六号室で歌舞伎町のバー "レモン" のホステス、上草千秋が自殺した。彼女もまた信夫同様、レモン味の清涼飲料で青酸カリを飲み下し死んでいた。
 千秋の自殺を信じない鶴瀬学園DS(推理小説)クラブの一人・お京こと藤川京子は、会長の高村翻常や幼馴染の芝端敬一、さらに姉の死を知り上京した千秋の弟・敏夫少年らと共に、千秋の持つ〈山吹色の糸封つき書類封筒〉を執拗に探し求める男の正体に迫ろうとするが、やがて彼らの前には二つの事件を結ぶ、都市銀行をターゲットにした大掛かりな犯罪の影が浮かびあがってきた・・・
 『ぼくの好色天使たち』に続く著者の大人向け長篇第七作。1980年9月刊。初期鮎哲か綾辻行人風の大胆なアリバイトリックを、コミカルな青春推理と組み合わせた大学生探偵団の二作目で、それなりに意欲的な小説。ただしメイントリックの関係でストーリーに組織犯罪を組み込んでおり、相性はあまりよろしくない。〈オペレーション・トマト〉なるマンガチックな名称や、スパイ小説もどきの展開を許容できるかどうかもおそらくは鍵。と言ってもそう聞いてイメージする程におかしな作品ではなく、随所に伏線も張り巡らせてあるが、全体としてチグハグなのは否めない。前作の『天才は善人を殺す』は未読だが、結末部分も含めシリーズ全体の色合いがどう変化したのかは気になるところ。今となっては古びてしまった要素も目立つので、評価は6点寄りの5.5点に留まる。題材的にかなり損をしていると思う。

No.1 4点 kanamori
(2013/01/03 15:34登録)
「天才は善人を殺す」の芝端敬一ら大学生探偵団の4人が活躍するシリーズの第2弾。
メンバーの紅一点”お京”の知人らの連続自殺事件を調べていくうちに、思いがけない大きなスケールの構図が浮かび上がってきて・・・といった話ですが、残念ながら前作より青春ミステリの味わいが希薄になっていて、伏線の張り具合もイマイチな気がします。時代設定が戦前や終戦直後のものより、本書のような”現代ミステリ”のほうが題材が古びてしまうのは皮肉な感覚ですが、ダイヤル式電話はやはり時代を感じますねえ。
ただ、アリバイ崩しのヒントが”フィボナッチ数列”(=「ダ・ヴィンチ・コード」でもお馴染み)というのは面白かった。

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