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ミステリの祭典

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紳士の黙約

作家 ドン・ウィンズロウ
出版日2012年09月
平均点8.50点
書評数2人

No.2 7点 kanamori
(2012/11/12 12:18登録)
”生涯サーファー、ときどき探偵”の、サーファー探偵ブーン・ダニエルズと、早朝サーフィン仲間”ドーン・パトロール”によるシリーズの2作目。
前作と違って、今回は私立探偵小説のフォーマットに近いプロットになっていて、ブーンが2つの依頼案件を並行して調査するうちに殺人事件に遭遇、事件が意外な展開をみせるという、まあストーリー自体は定番といえば定番です。
ウィンズロウの小説の魅力は、主人公たちの造形と語り口の巧さに尽きます。軽妙なユーモアやブーンのひとり突っ込みを交えたポップな語り口から、一転クライマックスでの短い章割りによる緊迫感あふれる文章への変転。また、ハードボイルドでありながら、ナイーブで好きな女性には奥手な主人公(作者が描く若者の主人公はみんなニール・ケアリー風なんですが)などなど。
今回、ブーンの元恋人サニーは電話とメールだけの登場ですが、そのシーンがまたいいです。

No.1 10点 Tetchy
(2012/11/04 20:05登録)
あの“ドーン・パトロール”のメンバーが帰ってきた!いや、我々がまた彼らの許へ訪れたというのが正しいのかもしれない。“ドーン・パトロール”、そして彼らが住んでいるサンディエゴのパシフィック・ビーチは読んでいる我々が再びその地を訪れたかのような懐かしい思いを抱かせる、不思議な雰囲気を備えている(ちなみにシリーズ名を冠しなかったのは小生が登録した『夜明けのパトロール』に何も書いていなかったからです><)。

今回彼らが関わる事件は3つ。メインはブーンがペトラから依頼される伝説のサーファーK2殺しの容疑者サーファー・ギャングの未成年コーリー・ブレイシンガムの、事件当夜の調査。そして彼が請け負うもう一つの依頼が“紳士の時間”仲間のダン・ニコルズの妻の浮気調査。そしてもう一つはジョニー・バンザイが関わる麻薬組織バハ・カルテル(『野蛮なやつら』!)の抗争。

この3つの事件がなんと複雑に絡み合って驚くべき事件の構図を描き出す。この辺のプロットが上手く組み合わさる味付けと云うか手捌きは見事としかいいようがない。

さてウィンズロウの描く物語は常々何らかの喪失感を伴うものだと感じていた。前作のブーンも変わらなく続く生活や仲間たちの関係が実は危ういバランスの上で成り立っていることを知らされた。今回もブーンは色んな物を喪う。
ウィンズロウは読者が永遠に続いてほしいと願う仲間たちとの付き合いや心から通じ合える恋人といった関係に躊躇わらずメスを入れる。前作もそうだったが南国のお気楽ムードで始まった物語は次第にブーンの周囲に不穏な影を差していく。特に残り100ページから始まる殺戮や拷問の数々は作品のイメージをガラッと変えるものだった。
しかし今回はまさに再生を予兆させる終わり方である。喧嘩のいいところはその後に仲直りできるところだ、そして喧嘩をするほど仲のいいというのは喧嘩をする前よりも本音で語り合える関係になるからだ。まさに本書はそんな爽やかな読後感を残してくれる。

それぞれに変化が訪れ、ドーン・パトロールのメンバーも以前のような関係にはならないかもしれないが、今回の苦境を乗り越えたその先が実に楽しみで今仕方がない。また必ず彼らの住まうパシフィック・ビーチを訪れよう。

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