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ミステリの祭典

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刑事くずれ
ミッチ・トビン

作家 タッカー・コウ
出版日1979年12月
平均点6.50点
書評数2人

No.2 7点 クリスティ再読
(2017/03/05 22:00登録)
このシリーズはハードボイルドとパズラーをうまく融合するという、できそうでできないことをやってのけて、ウェストレイクの才人ぶりを見せつけたものだが、本作はその第1作。ミッチの屈折した造形(絶賛引きこもり中だよ..ミッチ制作中のレンガの壁はATフィールド!)や、本作の舞台であるマフィアのファミリーがハードボイルド要素だが、パズラー要素も、ミスディレクションがよく利いていて「ストーリーテリングによる見えない人」(話の中でちょっとだけチェスタートン「見えない人」に触れている)だったりするという凝り具合である。クリスティ流の人間関係の偽装とかあって、パズラーとしても相当のものであるが、松本清張の某作も連想するな...
今回面白かったのは、本作結構ユーモアが利いていることだ。まあファミリー内部の殺人を解明するために、元刑事を雇って解明に当たらせる(そりゃファミリーの秘密を警察に明かすわけにはいかない!これ本当にウマい仕掛けだ...)という設定自体アイロニカルなものだが、マフィアに雇われるのをためらう主人公ミッチに対して

びくびくせんでくれ、ミスター・トビン。だれもあんたの童貞を奪おうというんじゃない

と依頼主が声をかけるとか、思わず吹き出すような描写が結構、ある。さすが、ユーモア・ハードボイルドで名を成した作者である(まあ控えめだけどね)。

No.1 6点 kanamori
(2013/02/05 15:39登録)
ハードボイルドや犯罪小説といったタフ・ノヴェルから、ドタバタ・コメディ風のユーモアミステリまで、幅広い作風で知られるドナルド・E・ウェストレイクが別名義で書いたフーダニット・ミステリ。元刑事ミッチ・トビンが探偵を務めるシリーズの第1作です。
女性がらみの不祥事で同僚刑事を見殺しにし市警を追われた過去に囚われ続ける主人公という設定や、無駄を省いた乾いた文体からは、ネオ・ハードボイルドの雰囲気があり、一方で、被害者である組織の大幹部の愛人が残した書きおきを分析し容疑者を絞り込む過程とミスリードの仕掛けに本格ミステリ的な技巧を感じます。本格とハードボイルドのコラボといった感がありジャンル分けが悩ましいですね。
当シリーズのもう一つの特徴は、本書における犯罪組織をはじめ、ヒッピー集団、精神病患者の療養施設など、いずれも特殊な社会・集団内の殺人を扱っていることで、容疑者を限定するところにも本格色が現れているように思います。

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