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ミステリの祭典

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世界を売った男

作家 陳浩基
出版日2012年06月
平均点7.00点
書評数2人

No.2 7点 nukkam
(2018/11/29 21:48登録)
(ネタバレなしです) ホラー小説やファンタジー小説なども書いている中国の陳浩基(1975年生まれ)が2011年に発表した本書は本格派推理小説とは思えないタイトルですが、私が手に取った文春文庫版の巻末解説では恩田陸が「本格がわかっている男」と絶賛しているではありませんか。記憶の一部を失った男を主人公とするミステリーというところがビル・S・バリンジャーのサスペンス小説「消された時間」(1957年)を彷彿させます。自分の素性を明らかにしようとするバリンジャー作品と違い本書のプロットは普通に殺人事件の捜査ですが、第5章の展開にはとても驚きました。そこから先は一体どうなるのか、ページを捲る手がもどかしかったです。謎解き伏線の回収も巧みで、恩田陸の「わかってるね」に私も同調します(笑)。

No.1 7点 おっさん
(2012/07/28 12:51登録)
――そして目覚めると、私は車の中にいた。
頭が痛い。夫婦が犠牲になったマンション殺人事件の捜査中、同僚の刑事と衝突したあと、したたか酒に酔って、そのまま駐車場で一夜を明かしたのか・・・?
あわてて署に向かったが、なんだか変だ。真新しい建物の外観。「2009年」と記されたポスター。
今年は2003年ではないのか!?
とまどう私の前に、ひとりの女性雑誌記者が現われた。休暇中の私、香港西区警察署の許巡査部長と、ここで待ち合わせをしていたのだという。しかも、彼女の取材目的は、“六年前”のマンション殺人事件だった!
私は彼女とともに、事件の真相を洗いなおしながら、失われた記憶を追い求めていくが・・・

中国語で書かれた未発表の本格ミステリ(-)を対象とする、台湾の島田荘司推理小説賞の、第2回(2011年度)受賞作です。作者の陳浩基(ちん こうき、サイモン・チェン)は、すでにホラーなどの著作もある、香港のプロ作家。
かなり特殊なベクトルの賞ですが、第1回受賞作の、籠物先生(ミスターペッツ)『虚擬街頭漂流記』が面白かったので、今年翻訳された本書にも、手を伸ばしてみました。

“私”をめぐる幻想的な謎とその帰結は、あるタイプのSFを思わせますが、それを合理的なミステリとして可能にするネタが×××というのは、まさに(『眩暈』以降の)島田荘司直系ですね。
医学知識による種明かしは、ミステリとしてアト出しにならざるを得ないわけですが、一人称パートと並行して描かれる、三人称視点の「断片」で、あるエピソードが具体的に描かれるため(個人的には、一人称と三人称を混在させる小説作法には抵抗があるものの)、読み物としては納得しやすくなっています。

いっぽう、肝心の(?)マンション殺人事件のフーダニットのほうは、説得力があるとは言えません。無理筋の古典的トリックをひと捻りしているわけですが、ひとつの事件をめぐって「同じような患者」が別々に二人も出てきては、嘘だろ、おい? にしかなりませんし、シロウトの一方的な解釈(21世紀どころか、1950年代レベル)で納得できるほど、それは単純な問題ではありません。

まあ、島田学派の優等生による、「21世紀本格」(幻想的な謎を、最新科学によって論理的に解明する)への模範解答ではあるけどね――と、生暖かい評価w で片づけようかと思っていたら、ラスト・シーンでやられました。
そうか、ひとつ“問題”が残ってたんだよね。それを最後の5行で・・・こう処理するか!
生暖かい、ではなく、暖かい目で見守ることにしましょう。
できればこの作者の、他の作品も紹介してくれませんか、文藝春秋さま。

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