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ミステリの祭典

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アクナーテン
戯曲

作家 アガサ・クリスティー
出版日2002年02月
平均点4.33点
書評数3人

No.3 6点 虫暮部
(2025/01/31 13:01登録)
 これは作者の趣味なのだろうか、結構リラックスして自由にポリティカル・ロマンの翼を広げた印象を受けた。台詞を通して現代社会に物申す、みたいな部分はまぁいいや。
 知識が無い私にしてみれば、古代エジプトなんて或る意味で異世界みたいなものだから、『レーエンデ国物語』みたいな心算で楽しんだ。

 友人たるホルエムヘブの存在感がやや薄いせいで、最後の決別の場面は必要以上に大仰な感じだ。前提として強固な関係性があってこそ、ああやって “引導を渡す” みたいな形が映えるのだけれど。アクナーテンに接する時は一歩引いていたから判りにくかったか。
 アクナーテンが吟ずる詩はどうなんだろう。“格調高さ” って却ってビミョーな感じになることがあるし、へぼ詩人が得々と自己陶酔している喜劇にも見える。

 訳文については、どういう基準で考えるべきか。古代の王宮だから儀礼的で品位ある言葉遣いなのはもっともだ。ただ、耳で聞いたときに意味が捉えづらそうな語彙(横溢、閑暇、咆哮……)がたまに現われるのは配慮が足りない。“読む戯曲” だと割り切れば無問題だけど……。

No.2 4点 レッドキング
(2022/07/20 20:50登録)
気の遠くなるような古代エジプト史においても、極めてユニークな王:アクナーテン=アメンホテプⅣ世。一神教・・存在論的唯一神ではなく太陽神拝一主義レベルだが・・による多神教排除を推し進め、支配階級のアメン神官達を弾圧し、遷都を強行し、新たな文化形態まで創造しながら、一代で反動の海に消滅してしまった革命の王。太陽神アテンの理想「愛と平和と非戦」・・ジョン・レノンかガンジーかクエーカー教徒か日本国9条か・・の理想に焼き尽くされた、そんな王を主役にした歴史ミステリ(て呼ぶにはチト・・まいいや)三幕劇。上演完了には3、4時間かかりそ。王の娘婿に、ツタンカーメンてなポピュラーネームも登場。
※ところでフロイトは、聖書の唯一神ヤハウェの元ネタが、この太陽神アテンだった説を唱えてる。

No.1 3点 mini
(2012/08/17 10:01登録)
今年は1年間に渡って”ツタンカーメン展”が開催される、皆様ご存知でした?
上半期は大阪が会場だったが、4日からは会場を東京”上野の森美術館”に移して開催されている
東日本在住の皆様、黄金のマスクを見るのは今がチャンスですよぉ~
さらに六本木ヒルズでは9月17日まで”大英博物館 古代エジプト展”も開催されている
今年の日本はエジプト・イヤー、ってのは大袈裟か(苦笑)

「アクナーテン」はクリスティ晩年に書かれた戯曲シリーズの1作で、アクナーテンとは宗教改革で有名なアメンホテプⅣ世ことイクナートンその人である
そのアクナーテンの娘婿であり、スメンク・カ・ラーを間に挟んで2代後のファラオがツタンカーメンなのである
脇役ではあるが戯曲中にも少年ツタンカーメンは登場する
アクナーテンは古代エジプト歴代ファラオの中でも変人として有名で、それまでの多神教を捨て一神教を奉じ都までも遷都した
遷都された都では新しい写実的な芸術も生まれアマルナ芸術と呼ばれている
その急進的な改革により反発も多く、死後は墓さえもまともに造られなかったりそんなファラオは存在しなかったみたいに歴史から葬り去られそうにもなったという説も有る
アクナーテンの死後に都を元へ戻し旧来のアメン信仰を復活させた張本人が本人の意思だったかは謎だがツタンカーメンなのだ
さらに戯曲中には軍人ホムエルヘブも登場するが、ホムエルヘブはツタンカーメン時代には将軍となり後に血は繋がっていないが自らファラオとなって政治を執ることになる
さて問題はアクナーテンがなぜ宗教改革に邁進したのかという動機だが、クリスティは従来通りの解釈である、それまでのアメン神を奉じる神官の政治的腐敗から脱却する為にアテン神への一神教に帰依したという説に則り話を展開する
つまりアクナーテンを理想に燃える若き英雄として捕らえているわけだ
アクナーテンの王妃であり古代エジプト3大美女の1人ネフェルティティも心やさしい人物に描かれている
ちなみに3大美女の2人目はラムセスⅡ世の妃ネフェルタリで、ずっと時代は下るが3人目がクレオパトラである
3人の中にハトシェプスト女王を入れる説も有るが、ハトシェプストは美女というより政治家のイメージだからなぁ

さて以前TBSだったと思うが、地中海での世界最大規模の火山噴火に関するドキュメンタリー番組が放送された
この噴火によって地中海周辺は何年にも渡って噴煙による日光遮蔽が起こり暗い日々が続いたそうだ
アクナーテンが即位したのはこの大噴火の影響がまだ有った頃と時代が合致しており、一神教への改宗への動機になっているのではという推論を番組ではしていた
なるほど面白い説だ、アテン信仰とは要するに唯一太陽神への信仰であり、暗い気象から末法思想的に光を求めていた当時の雰囲気が伝わる
そう言えばさ、末法思想が蔓延すると多神教よりも一神教にすがろうとする風潮は平安末期の阿弥陀信仰と通じるものが有るな
アクナーテンは現実の政治などは省みず一心不乱に祈っていただけの王だったという説も有る
クリスティの戯曲よりもこのテレビ番組の方がミステリー的に面白い解釈だと思えてしまうのだった

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