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ミステリの祭典

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南神威島

作家 西村京太郎
出版日1992年09月
平均点6.50点
書評数2人

No.2 7点 まさむね
(2023/09/14 22:59登録)
 作者が「天使の傷痕」で江戸川乱歩賞を受賞したのが昭和40年。しかし、活字となった作品を読み返して「自分の下手さ加減に呆れ、もう一度、勉強し直そうと考えた」そうです。その結果、当時長谷川伸氏が主宰していた新鷹会に加わり、その機関誌で発表した作品から選出した短編を収録したのが本書。そもそもは昭和45年に私費出版で刊行されました。「気取っていえば、推理小説もまた文学でなければならない」、「真のサスペンスは、現実の事件の表面を撫ぜることでは生まれない」。こう言い切る作者の熱意には、今更ながら素直に拍手を送りたいと思います。人間の内面に切り込む作品が揃っています。
①南神威島:人口400名に満たない離島に赴任した医師が遭遇した出来事。伝奇性と合理性。
②幻想の夏:ミステリ的な点は本短編集で最も高いか。愛と裏切り。
③手を拍く猿:北海道から東京に集団就職した青年の自殺。都会の孤独と故郷への想い。
④カードの城:動機は何であったか。挫折とプライド。
⑤刑事:捜査に執着する刑事の内面を描く。刑事の職務と刑事たる個人。

No.1 6点 kanamori
(2012/02/10 22:31登録)
最初期の短編集(講談社文庫版)。本書の初版は’70年に自費出版されたものらしい。その5年前に乱歩賞を取った作家が....と思うけれど、乱歩賞作家といっても当時はそんなものなのかな。
自身の作風を色々模索している感じで、結果的にバラエティに富んだ作品が揃っている。共通するのは文芸寄りということで、作家名を伏せれば西村京太郎の作品とは誰も思わないだろう。

収録作の中では、南九州の離島に赴任した医師が遭遇する悪夢のような出来事、表題作の「南神威島」が一番印象に残った。これは閉鎖集団もの伝奇ミステリの傑作でしょう。
あと、「青の炎」を思わせる青春ノワール風の「幻想の夏」、大都会の孤独とやるせないラストの「手を拍く猿」、貧乏詩人の不条理な殺人動機「カードの城」など、人間の内面にせまる緊密度の高い作品ぞろいです。

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