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ミステリの祭典

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悪魔とベン・フランクリン

作家 シオドー・マシスン
出版日2003年10月
平均点6.50点
書評数2人

No.2 8点 人並由真
(2020/06/10 02:34登録)
(ネタバレなし)
 1734年のアメリカ。植民地ペンシルヴァニア州の首都フィラデルフィアで、28歳のベンジャミン(ベン)・フランクリンは新時代の文化人となるべく地元紙「ガゼット」の編集と発行に励んでいた。彼は市民有志からなる文化サークル「同志会」に所属し、町の若き名士でもあった。そんなベンは、富豪で土地の実力者コリン・マグナス老人によるマグナス家の家族への封建的で横暴な振る舞いが目にあまり、自分の新聞に批判記事を掲載する。だがこれに怒ったマグナスは自分は神と悪魔の力に通じていると豪語し、ベンに必ずや悪魔の断罪が下るだろうと宣告した。やがてベンの周囲で殺人事件が発生。しかもその周囲には、悪魔の出現を思わせる割れたひづめの跡が残されていた。

 1961年のアメリカ作品。
 同じ作者シオドア(シオドー)・マシスンの『名探偵群像』は、ぜひとももう一度しっかり読み直したい短編集のひとつだが、本が家の中のどこにいったか見つからない。
 どうせなら現在の創元社で『名探偵ジョン・バリモア』とかの未収録分までを追加収録した新装・新訳版を出してくれないだろうか。

 それで本書はズバリその『名探偵群像』の長編バージョンみたいな内容で、気分的には小学生時代に図書館で借りて読んだ歴史上の偉人の伝記ジュブナイル、あの雰囲気を思い起こして実に楽しかった。
 サタニズムや魔女狩り騒ぎなど欧州からの迷信を引きずったまま新天地に来てしまった18世紀当時の移民たちの文化レベルもストーリーに絶妙に融合。カーの時代もののB級クラス、それにクイーンの『ガラスの村』みたいなスモールヴィルものの枠のなかでの連続殺人事件(フーダニット)劇が存分に楽しめる。
 登場人物ではフランクリンを囲む「同志会」の面々や、キーパーソンとなるコリン・マグナス老人の家族たちが丁寧に描きこまれ、終盤、フランクリンが暴徒に立ち向かう山場ではそこに至るまでのキャラクター描写の積み重ねが十二分に活きてくる。加速していくテンションの高まりは問答無用に面白い。
 中盤の展開は冗長という声もあるが、良い呼吸で次の事件がおこったり、ドラマ的な見せ場が用意されていたりで、個人的にはまったく退屈しなかった。 

 ミステリとしてはいくつもそれなりに丁寧に伏線を張ってある一方、良くも悪くも話を盛り上げるために、作中のリアルとして「?」となってしまうところが数ポイント。その辺はフツーだったら文句を言って減点の対象になるところなんだけれど、まあいいじゃないの、読み手の方でなんか屁理屈をつけて弁護してあげましょう、という気分になる。つまりそれくらいパワフルで楽しめた(笑)。
 マシスンがこの路線の長編をこれ一本しか書かなかったのは惜しまれるな。まあ生涯に長編作品はこれだけ? だったからこそ、これだけ剛球の一本を書けたのかもしれんけど。
 いつだったかのミステリマガジンで歴代ポケミス特集をしていたとき、誰かがコレを「ポケミスでしか読めない翻訳ミステリ」のマイベスト3に選んでいたよね。強くうなずける。

No.1 5点 nukkam
(2014/09/03 16:06登録)
(ネタバレなしです) 1961年発表の長編歴史本格派推理小説で、1734年のフィラデルフィアを舞台にして政治家、科学者として後世に名を残すことになるベンジャミン・フランクリン(1706-1790)を主人公にしています。本格派の謎解きとしては推理があまり論理的でなく、思いついた仮説が結果的に当たったに過ぎないようにしか感じませんが終盤での容疑者を絞り込んでいく過程はジル・マゴーンの某作品を連想させて印象的です。オカルト要素やタイムリミット要素を織り込み、起伏に富んだ物語はサスペンスたっぷりです。

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