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ミステリの祭典

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されど修羅ゆく君は
「アーバン・リサーチ社」シリーズ

作家 打海文三
出版日1996年05月
平均点6.00点
書評数2人

No.2 5点 レッドキング
(2020/02/28 18:37登録)
作者第三作にして、「時には懺悔を」に続く「探偵物語」第二弾。登校拒否の13歳少女と元結婚詐欺師の銀髪長身の六十すぎ女。二人の女探偵が思いを寄せる男は探偵くずれで、同棲していたデザイナー殺しの容疑者でもあった。
「(いい女になりたかったら)修羅場をいくつかくぐりなさい」「修羅場って?」「人生の修羅場は一種類しかないの」「なあに?」「失恋。」 フェミニンハードボイルド、よいなあ、点数オマケ付けちゃう。

No.1 7点 Tetchy
(2011/09/20 21:14登録)
これは単なる人探しの探偵物語ではない。
これは女の戦いの物語である。
渋谷の公園で見つかった全裸の女性死体の事件に隠された警察の犯罪を描いたこの作品は実は阪本尚人という男を軸にした女同士の激しい戦いなのだ。
戦闘に立つ女性は4人。本書の主人公13歳の戸川姫子は登校拒否児であるが既に精神は大人であり、大人に同等に渡り合う知恵を備えている。
そして阪本の探偵仲間の鈴木ウネ子。
そして被害者の南志保。かつて自分の妹を殺された犯人が阪本の命令を逸脱した行為によって引き起こされたものと思い、糾弾していたがそのうちに阪本に惚れ、同棲していた女。
そして最後は高木伊織。キャリアで阪本の元上司だが、周囲と違う雰囲気を備えた巡査の阪本に惚れ、南志保と三角関係に陥ってしまう。
そう彼女の中心に位置する阪本尚人という男は冷めた顔に愛くるしい笑顔が似合うが、一旦仕事でも自分の人生に関ればその後の生き様まで目を見晴らせ、道を誤っていれば更正を促すという、いまどき珍しいほど情に厚い男。警官だったが上に書いた命令違反行為によって懲戒免職になり、その後探偵に身をやつし、その生活に疲れ、山梨の山奥で農家を始めて隠遁生活を送るようになった、一風変わった男。彼がこの4人に嵐を生み出し、人が死ぬまでになった、いわば災厄の男なのだ。
つまりこれは追われる者阪本が現代版光源氏ともいうべき、出会う女がどうしても恋に、いや欲望に駆られざるを得ないようなフェロモンを漂わせている男なのだ。
警察上級官僚のスキャンダル隠蔽を巡る陰謀劇と見せつつ、その実、女の欲望が織り成す疾走劇。

名台詞のいっぱい詰まった良作。
作者がもうこの世にいないのが惜しまれる。

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