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ミステリの祭典

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バーにかかってきた電話
ススキノ探偵<俺>シリーズ

作家 東直己
出版日1993年01月
平均点7.00点
書評数2人

No.2 8点 Tetchy
(2019/04/19 21:27登録)
正直1作目は何とも調子に乗った、おちゃらけ気味の主人公<俺>の独特な台詞回しに若書きの三文芝居といった酷評を挙げたが、あれから十数年経ったことで私の中で何かが変わったのか、それとも免疫ができたのか、今回はさほど気にならなかった。
いや勿論所々演出過剰気味の云い回しは本書でも散見されるが、<俺>を一度体験した後ではこの斜に構えることでいっぱしのタフガイを気取る若気の至り的態度に対してどうやら寛容に捉えられるようになったらしい。

また本書の物語が実にミステリアスに進むことも以前よりも抵抗なく読み進む理由の一つとして挙げられる。
コンドウキョウコとだけ名乗る女性から10万円が口座に振り込まれて依頼されるのは何とも奇妙な物ばかり。ある人に会って○月○日に誰かはどこにいたかを尋ねろとか誰かを喫茶店に呼び出してその時の態度を見てほしいといった掴みどころのない依頼だ。
しかし最初の依頼でなんと主人公の俺は電車のホームから突き落とされ、危うく死にそうになる。更に調べていくうちに1年前の不審火の火災事故で近藤京子という女性が死んでいることに気付く、といった具合に次から次へと謎が連続し、それがページを繰らせるのだ。

私はこの謎の女性コンドウキョウコは霧島敏夫の元妻沙織であると途中までは思っていたが、最後のコンドウキョウコの沙織に揺さぶりをかけるという依頼でそれを撤回してしまった。そこがこの作品の妙味であり、作者のトリック(この場合は敢えてそう呼んでも差し支えないだろう)に見事に引っかかってしまった。
暗中模索の中で進む事の真相が最後に沙織からの手紙で判明するのは何とも残念だ。しかし本書は本格ミステリではなく、ライトなプライヴェート・アイ小説であることを考えれば、それもまた納得できるか。

本書の特徴はキャラクター造形に秀でたところにある。特に霧島敏夫という人物は印象的だ。
彼は直接的には物語に登場しない。拉致されそうになった女性を救おうとして暴走族たちに立ち向かい、逆に返り討ちに遭って命を落とす60前のこの男は物語の時間では既に存在しておらず、<俺>が関係者の話を聞いていくうちにその肖像が出来てくる。その手際は実に見事。
特に最後の沙織の手紙で語られる、死の間際に拉致されそうになった女性を必死に助けるためにその女性の足を殴られ、蹴られながらも話そうとしなかった愚直さが胸を打つ。拉致騒動が霧島を殺害するために仕組まれたものであり、その女性自身もグルであったことを一つも疑わずに助けようとしたこの件は物語を、キャラクターを強く印象付ける。

そして最後に忘れてならないのは沙織という女性だ。
今回の物語は全てこの沙織によって描かれ、そしてピリオドが打たれる。主人公の<俺>は彼女のストーリーを円滑に進めるためだけに存在したに過ぎなかった。
それが功を奏したのかもしれないが、主人公の青臭さと身勝手さ、また子供っぽい独白は第1作目と変わらないのに読後感は前より悪くなく、寧ろ良い。
本懐を遂げた女の生きる道を見せてくれた、そんな思いでいっぱいだ。

それは実に遣る瀬無く、切ない話なのだが、コンドウキョウコこと霧島沙織が見事過ぎて爽快感を覚える。もし一歩早く<俺>が沙織の企みを阻止し、彼女が生きる道を選べばそれはそれで実に泥臭いものとなっただろう。やはり本書の結末はこれで良かったのだ。

日本で最も北に位置すると云っても過言ではない繁華街ススキノ。そこでは人知れずこんなドラマが起こっている。北海道を愛し、そして専らススキノを愛する作者はそれを青臭くもセンチメンタルに描く。
第1作目を読んだ時はこの作者の作品を読むのに躊躇いを覚えたが、そんな懸念はこの2作目で払拭された。

またいつか作者の描くススキノを訪れよう。

No.1 6点 大泉耕作
(2011/08/26 14:11登録)
 映画鑑賞の際にはとりあえず原作を読んで映画に臨もうと思い、予備知識もなく、ニックネームの通りただ大泉洋のファンだったというとで手にとってみました。
 五十ページほど捲るまでは主人公による一人称式の冗長でふざけた文が展開されますが、百ページも越すとむしろ一転二転する展開に物語は集中され、文章なんてどうでもよくなってきます。実際に、この小説の文章慣れしてゆくと『冗長』から『情緒』に姿は変貌して、息もつかせぬ展開に読者は吸い込まれます。
 ほんの些細なことから調査してそこから複雑な事実が浮かび上がって来るのは、パズルのようで斬新です。
 登場人物も魅力のひとつで主人公のハードボイルドらしい自説と彼を取り巻く友人や記者との奇妙なやり取りや、気の良いタクシー運転手に管理人の耳の聞こえないおじさん、犯罪を成した少年と少年の母親に、そんな息子を愛した父親と、主人公は様々な人間に出会い、人の苦境を見せつけられ勉強してゆきます(そんな真面目でもないか)。
 傑作と思いませんが、多々な部分を著者は鋭くえぐって見せている。それだけに小説全体が人間臭いし、面白い。
 味スッキリしないかもしれません。(切ないものが好きなら結構なのですが)
 ミステリのような探偵ものですが、読んでも損はないと思います。読んでいていとても楽しめます。しかし、読みたいとも思う方は映画を鑑賞してからをお勧めします。

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