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ミステリの祭典

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監禁

作家 ジェフリー・ディーヴァー
出版日1998年02月
平均点7.50点
書評数2人

No.2 8点 蟷螂の斧
(2015/03/02 18:24登録)
緊迫感があり、エンタメに徹したサイコキラーサスペンスでした。誘拐者と追跡者(誘拐された娘の父親)とのやり取りは迫力があり楽しめました。二人とも弁が立つ者同士です。意外な真相により、誘拐者の論理が崩れていくところが本作の見どころですね。ただ、もう一つの真相が、かなりあっさり片づけられていて、非常にもったいない気がしました。もっと追求(やり取り)する場面があっても良いと感じました。あと、追跡者側は当初から誘拐と思っていたので、その手がかりには藁をもつかむ心境なはずですが、素通りしてしまう箇所がありました。物語を面白くするため(読者をやきもきさせる?)にやむを得ないのかもしれませんが、チョット違和感がありましたね。この父親と元妻の関係は、この後どうなるのでしょう?・・・。余談となりますが、前の書評で「夜の大捜査線」に触れたのですが、本作の会話の中にシドニー・ポワチエとロッド・スタイガーの名前が出てきて、おもわずニヤリとしてしまいました。あと「その女アレックス」(監禁もの)の鼠も出てきました・・・(笑)。

No.1 7点 Tetchy
(2011/04/05 21:53登録)
アーロン・マシューズという敵役が実に凶悪で底知れぬ恐ろしさを兼ね備えた人物だ。十代の頃に父親を凌ぐ説教を行う神父の卵として数々の信者から篤い信仰を得、さらに独学で心理学の書物を読み漁って無免許のセラピストとして開業もしている。そのため無敵なまでの腕力を誇るわけではなく、相手の心理を読み取り、信頼感を抱かせる声音を使って、追跡者を出し抜き、あの世へ送るサイコキラーなのだ。どんな人間も心の弱いところを突かれると冷静さを失い、いつもの自分の実力の半分も出せなくなる。アーロンは人が持っている心の弱い部分を探り、その隙を上手く突いて相手の一枚も二枚も上に行くのだ。通常の作品であれば残るべき登場人物が次々と一人、また一人と彼の手によって抹殺されていく。従来の連続殺人鬼のイメージを刷新するキャラクターだ。
そんな相手に対峙するのがかつて敏腕検事として鳴らしたミーガンの父テイト・コリア。彼はそのあまりに弁が立つため、その切れ味の鋭さからかつて陪審員を見事に誘導させて無罪の人間まで死刑にまで持っていった苦い過去を持つ。つまり相手の心理を読み、説得し、納得させることに関しては一流の男なのだ。人間の情理を操る2人の男の対決が本書の読みどころだ。

しかしもっと掘り下げて考えてみると、無実の罪の男を死刑に追いやるほどの説得力を持つ検事もまた、乱暴な云い方をすればある意味殺人者と云えるだろう。つまりテイト・コリアとアーロン・マシューズは表裏一体の存在なのだ。しかもお互いがお互いの正義に従ってそれを成しているところが共通している。検事であったテイトは法の名の下、犯罪者を死刑にするため、弁舌を揮う。牧師であったアーロンは神の名の下、信者が自ら死を選ぶよう、人の心を揺さぶる声音で導く。それぞれが善を司る職業に従事しているだけにこれは怖い。

そしてこの類稀なる頭脳を持った人間同士の戦いという構図は後のリンカーン・ライムシリーズの萌芽を感じさせる。そういった意味では本書が後のディーヴァーマジックの源泉と云えるのかもしれない。

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