home

ミステリの祭典

login
好色いもり酒 人形佐七捕物帳

作家 横溝正史
出版日1984年01月
平均点6.50点
書評数2人

No.2 6点 クリスティ再読
(2020/06/14 17:22登録)
五大というか七大(+顎十郎、安吾)捕物帳の制覇もしたくなった。残りは佐七と右門だもんねえ。横溝捕物帳の表看板人形佐七に参戦。おっさんさまも高評価の春陽文庫の短編集。
評者のお気に入りは、プロットの綾に変化の大きい「敵討ち走馬灯」。昔何かのアンソロで読んだ記憶がある。これは犯人にしゃれっ気があるのがナイスで、心ならずも罪を犯した人を見のがす捕物帳のお約束をうまくアレンジしてあるのもいい。「花見の仇討ち」はもともと古典落語のネタで、銭形平次に同じ設定の「花見の仇討(1937)」があるから、たぶん競作(横溝は1955)みたいにしたものだろうな。というか、横溝正史って考証は弱い(ちゃぶ台とか出て苦笑)から、レギュラーのお粂・辰五郎・豆六の掛け合いも落語調で、豆六が「民主的やない」って笑わせるような語り口の参考がそもそも落語なんだろう。そういう来歴を考えると、「花見の仇討ち」なんて絶好のネタになるのもわかる。
「捕物帖の百年」でも横溝・城昌幸の二人はミステリ禁圧の時代に、ミステリの「かわりに」捕物帳を書いた、と指摘されるくらいのもので、トリックのある作品は多いけど、解明のフェアさとかはあまり拘らない傾向がある。「たぬき女郎」とか「恋の通し矢」とか仕掛けは面白いんだけどね。で、やはり考証弱めの銭形平次の理想主義と比較すると、どうも横溝正史はサービス精神旺盛で、エロや残虐を盛り込みすぎて品がない傾向がある。まあ達者で器用な作家なのはよく分かってはいるんだけど、評者は佐七より闊達な若さまの方が好きだなあ。

さて、五大残りの右門も頑張るか。昔読んだけど、全部読んでも量的にはそう辛くないし。

No.1 7点 おっさん
(2010/12/23 07:00登録)
春陽文庫の<全集4>、今回の収録作は――
1.日食御殿 2.角兵衛獅子 3.呪いの畳針 4.花見の仇討ち 5.艶説遠眼鏡 6.水芸三姉妹 7.たぬき女郎 8.好色いもり酒 9.敵討ち走馬灯 10.恋の通し矢 11.万引き娘 12.妙法丸
ほぼ同時刻に二つの場所でおきた、毒酒さわぎの顛末を描く表題作8も悪くありませんが、同じ毒殺ものなら、衆人環視下の弓勢くらべというセッティング(師弟対決の場でいっぽうが死に至るが、本当に狙われたのはどちらか?)が魅力的で、三角関係の悲劇が胸を打つ、10を推したいですね。マジに本格ミステリとして注文をつけるなら、“殺人予告”の必然性と伏線の張りかたに、あとひと工夫、必要ですが。
設定で度肝を抜かれるのが1。ときの将軍・徳川家斉公じきじきの依頼により、佐七が隠密殺しの下手人と消えた密書の行方を追う、タイムリミット・サスペンスw です。
基本的に、金田一ものの「黒蘭姫」なのですが、ユニーク過ぎる“手がかり”が強烈な印象を残すのが11。
語り口の工夫を買いたいのが、詐欺をたくらむ小悪党たちのエピソードが、計画の破綻から、後半、佐七側のストーリーに移行する12ですね。炸裂するおバカなトリックを笑って許せるようなら、あなたは佐七上級者w
とまあ、この巻は、きわだった一篇こそありませんが、ヴァラエティに富み、読後感を語り合いたいような作がいっぱいです。収録作全体の水準は、ここまでで一番といっていいでしょう。

2レコード表示中です 書評