home

ミステリの祭典

login
無限ループ

作家 大村あつし
出版日2007年06月
平均点5.50点
書評数2人

No.2 5点 レイ・ブラッドベリへ
(2010/10/30 17:58登録)
 シーマスターさんの書評を見て、すかさず読んでみました。
「少し長めのショートショートだな」という感想でした。

 それで、本題の「サイボーグ009のラスト」ですが…(すみません。ぼくが食いついたのは、ここのところなのです)
 ご存じない方もいると思うので念のために書きますが、「サイボーグ009のラスト」というタイトルの本はありません。ここでいうのは、石ノ森章太郎氏の「サイボーグ009 地下帝国ヨミ編」でのラストシーンのことです。
 このラストがもたらす感動の要因は、「他者への純粋な善意」なのでしょうか。正義のヒーローたちが、わが身を犠牲にしても悪との戦いに駆りたてるものは何なのか、その胸中を窺い知ることはできません。だがそれはおそらく、 だれもが心に秘めている「すべての人が幸せになれるように」という願いを具現化しようとしているのでしょう。

 ところで石ノ森氏の描いたこのラストシーンは、アメリカのある短編SFを元にしているといわれています。星新一氏もこの作家がお好きだったそうで、短編集が日本で翻訳される前に原書をペーパーバックで入手し、外国語に強い今日泊亜蘭氏に頼んで、これをテキストに英語を習いながら読み進めたそうです。そしてSFファンの会合などで、この小説を披露したそうです。
 以下は野田昌宏氏の述懐です。
「星さんが原書を読みながら、みんなに紹介してくれたんですが」
(そういってこのSFのあらすじを語った後に)
「最後の部分を星さんが、“Make a wish, Make a wish”っていいながらしびれていたなあ。みんな、なんだか感動してしまって、すごいなあって感想をいいあったものです」
(最相葉月 「星新一 1001話をつくった人」 新潮社)

 これも「サイボーグ009のラスト」と同じように「星に願いを」の物語です。だが、こちらの作品の感動がどこからくるものなのか、よくわからない。どうも「正義への意志」とか、「他者への善意」の物語ではないようです。
 でも、アメリカの青年が書いた一編のSFの、たかだか4行ほどのラストシーンに、星氏や石ノ森氏などの日本の青年がしっかりと詩情を感じ取ったことについて不思議な感慨にとらわれます。
 そしてフィクションのもつ大いなる力に、少し感動してしまいます。

No.1 6点 シーマスター
(2010/10/20 23:38登録)
初耳(ていうか初見)の作家だが書店の宣伝スタンドを見て即買。

主人公が、憎悪の対象者から怒りの度合いに応じた金を巻き上げることができる「箱」を手に入れることから始まり、それを使いながら・・・というなかなかドラえチックなSFミステリー。

ITベンチャー、ドラッグ、政財界の癒着や芸能界の裏側、銀座のクラブと女達・・・現代社会の光と闇をライトなタッチで映し出し、いくつかのトリッキーな「繋がり」で笑わせてくれたり驚かせてくれたりもしながら「家族とは何か」「人は何のために生きるのか」「本当に大切なものは何か」というテーマを焙りだしていく内容の濃い作品になっている。それが止まらないほど読みやすい。(一口サイズに章分けされているので尚更)

最後は(プロローグによって大体どんな感じになるのかは分かってしまうが)ちょっとジンときた・・しかし書き方によってはサイボーグ009のラストのような感涙するほどの感動をもたらせてくれることもできただろう・・・と思わせられるところが少し残念。

2レコード表示中です 書評