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ミステリの祭典

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最後に二人で泥棒を -ラッフルズとバニー(3)
怪盗ラッフルズ

作家 E・W・ホーナング
出版日2005年03月
平均点7.50点
書評数2人

No.2 7点 弾十六
(2021/05/03 23:57登録)
単行本1905年出版。初出は前半5作が米国週刊誌コリヤーズ誌、連載タイトルはA Thief in the Night、イラストは不明。英国月刊誌ペルメル誌の方は同じ連載タイトルA Thief in the Nightでコリヤーズ誌掲載分を連載(1905年1月号〜5月)し、引き続き6話〜9話を掲載、イラストはCyrus Cuneo。最後の作品は短篇集初出。
前二冊ではホンヤク者さんの誤訳をあげつらったが、翻訳全体の雰囲気は良くラッフルズものの本質を捉えている。脳天気で大胆でちょっとドジなラッフルズと純情なバニーのコンビの楽しさが伝わってくる。でも細かい文章や語釈を見るとかなりの出鱈目訳。意味が通じなくても豪傑パワーで押し切るところがラッフルズに通じるのだろう。きっとホンヤク者さんは性格が良い人なんだと思う。
さて、おっさん様も評しているとおり、ホームズものに匹敵するシリーズものなんだから創元さんが全部翻訳し直して欲しい。英国風の控えめではっきり言わないストーリーの微妙な綾を日本語でも読みたい。アガサさんやJDCやEQの再訳なんて後回しで良いから是非、と思う次第です。
本作の評では細かい詮索は省く。文章は相変わらず意味不明なところが多いけど、概ねオッケー(もちろん薄目で見て、の話)。なお、各短篇の評価点は翻訳で割引してない、物語としての評価です。
以下、Reduxはラッフルズ・シリーズの注釈と雑誌掲載のイラスト満載の楽しいサイトRaffles Reduxからのネタ。
(1)Out of Paradise (初出: Collier’s Weekly 1904-12-10)「楽園からの追放」: 評価6点
初出誌コリヤーズの表紙がRafflesを痺れるくらいにカッコよく描いた超絶美麗絵師J. C. Leyendeckerの手によるもの。大きな活字で「ラッフルズ再登場!」と大宣伝。とても力が入っている。ビタースイートな話なんだが、翻訳は肝心のところ(p26)でズッコケ。この本の最優秀誤訳賞を差し上げましょう。正しいネタは英Wikiのこの話のPlotを読めば平易な英語なので明快にわかるはず。誤訳の正解はReduxの注を見ると良い。
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(2)The Chest of Silver (初出: Collier’s Weekly 1905-01-21)「銀器の大箱」: 評価5点
ラッフルズもバニーもトルコ風呂が好きだったんだね。
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(3)The Rest Cure (初出: Collier’s 1905-02-25)「休暇療法」: 評価7点
こーゆー話をぬけぬけと書くホーナングって、いったいどういうつもりなんだろう。
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(4)The Criminologists’ Club (初出: Collier’s 1905-03-25)「犯罪学者クラブ」: 評価6点
挑戦されたら受けて立つ、の精神が良い。冒頭は「そんなクラブの名前、ウィテカーには載ってないよ」ということ。後半に突然「愛犬レガリア(p109)」が出てくるが、原文はthe regalia under his bed(試訳: 式服がベッドの下にある)で「正装(p98)」との関係に気づいていない。おおらかだなあ。
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(5)The Field of Philippi (初出: Collier’s 1905-04-29)「効きすぎた薬」: 評価5点
冒頭の「校長(head of our school)」は「筆頭生、生徒会長」の意味。詳しい注がReduxにある。英国のパブリックスクールでは結構な権限を持っていたようだ。親の金の力で筆頭生になった、というわけなのだろう。ここを間違えるとトンチンカンになるよね。
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(6)A Bad Night (初出: The Pall Mall Magazine 1905-06)「散々な夜」: 評価6点
Reduxによるとホーナングも喘息持ちだったという。どおりで薬などの描写がやけに詳細だ。当時の(怪しい対処法も含め)治療法は実際、こんな感じだったのだろう。
クリケットのくだりの翻訳はかなり怪しい。「交流試合」と訳されてるが、原文はTest Match。数日かけて2イニングを戦う由緒ある国家対抗の頂上決戦。特にイングランド対オーストラリア戦はAshesの異名がある伝統のシリーズ。ざっと原文を読んで再構成すると、当初、イングランド(以下「英国」)は豪州に大量点を許し、続く英国の攻撃は「7アウト(wicket)時点で200点以上負けていた(クリケットは1イニング10アウト制)。大量得点したのはラッフルズで、62点獲得。最後まで打席で粘っていた(not out at close of play)」「じゃあ明日は彼一人で100点以上(century)を期待しよう!」みたいな感じが正しそう。この試合はReduxによると会場(Old Trafford)、月日(the third Thursday, Friday, and Saturday in July)と展開から1896年7月16〜18日のAshesシリーズ第二戦がモデル。初日は豪の第一イニング8アウト366点まで、二日目は英国第二イニング4アウト109点まで、三日目で豪州の勝ち確定で終了。イニングごとの得点は豪1stイニング412点、英1stイニング231点(7アウト時点で154点なので、物語の通り200点以上負けている。このイニングの最高得点65点を叩き出した(ピッチャーもこなす)Lilleyはイニング最後まで打席に立っていた。) 引き続き(交互に攻撃すると決まっているわけではない)英2ndイニング305点、豪2ndイニング(最終イニング)で7アウト時点で125点取ってサヨナラ勝利。だが、その頃バニーは刑務所、ラッフルズはイタリアのはず。(この1896年のAshesシリーズは結局英国2勝豪州1勝で、無事英国の勝利で終わっている)
モデルとなった試合と違い、本作では英国1stイニング7アウトのところで第一日目が終わった、という設定か。それでバニーが列車で読んだ記事にはそこまでの情報しか載っていなかったのだろう。
Reduxには1905年7月8日The Evening World [New York]紙に「ファウスティーナの運命」が掲載された時のイラスト入り広告、ラッフルズとバニーが登場する盗難保険(burglary insurance)の宣伝が載っていて楽しい。「バニー、この部屋番号はNew Amsterdam Casualty Companyの盗難保険加入リストに載ってる!盗みは止そう。地の果てまで追っかけられちゃうよ」
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(7)A Trap to Catch a Cracksman (初出: The Pall Mall Magazine 1905-07)「ラッフルズ、罠におちる」: 評価7点
バニーはまたしても無謀なラッフルズに振り回され、絶体絶命のシチュエーションに投げ込まれる。非常に面白い。「特別な鍵(p191)」はBramah lock。Reduxによると解錠困難として製造元が博覧会で200ギニーの賞金を賭けたことがある。
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(8)The Spoils of Sacrilege (初出: The Pall Mall Magazine 1905-08)「バニーの聖域」: 評価7点
子供の頃の思い出が詰まった作品。いいねえ。
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(9)The Raffles Relics (初出: The Pall Mall Magazine 1905-09)「ラッフルズの遺品」: 評価5点
雑誌連載では最後となった作品。この案内人、何者?(実は地獄の使者だったりして…)
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(10) The Last Word (短篇集A Thief in the Night, Chatto & Windus 1905)「最後のことば」: 評価7点
沁みるなあ。ところでバニーの実名がHarryだというのは、ここが初出か?Mandersという名字は短篇では出てこない。長篇Mr. Justice Raffles (初出The Grand Magazine of Fiction 1909-01)の第四章で初めて明かされる。
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住田 忠久さんの解説は素晴らしい。きっとこの出鱈目翻訳は読んでいないはず。ルパンとの関係も明快に書かれている。amateur=gentlemanなんだよね。フランス語じゃないGentlemanをメイン・テーマに使った社主兼編集長Pierre Lafitteは分かっている、という事。多分、ラフィットがラッフルズを読んで、ルブランに吹き込んだのだろう(フランスのコナン・ドイル、としてルブランを売り出したのもラフィットだ)。さて、これでルパンのことを書く準備は完了。
ついでにRaffles, the Amateur Cracksman (1917) John Barrymore主演も某Tubeで見た。クリケットの試合も交えながらの楽しい古式ゆかしいサイレント映画。上手くまとまってるので、ファン必見。必見といえば1975-1977の英国TVシリーズRafflesは素晴らしい。いたいけなバニーがハマってるのでぜひ。当時の感じも良く出ている。これも某Tubeで(英語だが)見ることが出来る。事前に小説を読んでおけばストーリーはわかるので、心配無用。楽しいよ!

No.1 8点 おっさん
(2012/02/14 10:33登録)
ラッフルズもの第三短編集 A Thief in the Night(1905)の翻訳です。
前作の最終話で、ラッフルズとともに従軍し、負傷して戦地から一人帰還したバニー。その彼が、戦火に消えた友の在りし日の思い出を回想することで、最後の冒険の幕が開くことに・・・

収録作は――
はじめに 1.楽園からの追放 2.銀器の大箱 3.休暇療法 4.犯罪学者クラブ 5.効きすぎた薬 6.散々な夜 7.ラッフルズ、罠におちる 8.バニーの聖域 9.ラッフルズの遺品 10.最後のことば

ラッフルズがこっそり“盗品”を預けていた銀行に強盗が入ってしまう2、ラッフルズを泥棒とにらむアマチュアの犯罪研究家たちが彼を夕食会に招く4、万全の泥棒対策を豪語するボクシング・チャンピオン宅にひとり侵入し、罠におちた相棒を、バニーが救出に駆けつける7。
凝らされたミステリ的趣向、そのプロットのひねりにおいて、上記3篇が本巻のベスト3。にとどまらず、これはラッフルズ・シリーズ全体のベスト3でしょう。
ラッフルズとバニーの泥棒活動を二人三脚でストレートに描くのではなく、二人の行動を(部分的に)切り離し、そこで発生する、話者の預かり知らない部分を、サプライズのための仕込みやサスペンスの醸成に利用する、ミステリとしての作劇が――その萌芽はあったにせよ――ここでついに完成をみます。
とりわけ、一難去ってまた一難の展開をアクロバチックに切り抜ける7の、“唯一の解決法”は素晴らしい。

ロンドン警視庁の犯罪博物館で公開中の“ラッフルズ遺品展”を舞台にした9も、そうした作劇の延長線にあり、愉快なオドロキとともに、シリーズを総括するようなエンディングを堪能できます。

またミステリ要素とは別に、ラッフルズとバニーの友情物語としても本書は優れており、1で描かれたバニーの恋の、10における帰結が、それを鮮やかに浮かび上がらせます。10の「手紙」をとおして鮮明になる、ある女性のキャラクターも素晴らしく、シリーズは余韻嫋々たる幕切れを迎えます。
ラッフルズ愛好家の住田忠久氏による、詳細な巻末解説もグッド。

というわけで、筆者のオススメ本なのですが、ラッフルズ・シリーズは過去作への言及が多く、それを踏まえた展開に妙がある(たとえば本巻の傑作2にしても、第一短編集『二人で泥棒を』の「ジェントルメン対プレイヤーズ」「リターン・マッチ」の続編的性格がある)ので、できれば最初から、シリーズ全話を読んでほしいのですね。よろしくお願いしますw

本書単体での評価は、シリーズの連続性をあえてマイナスとして8点にとどめますが、短編集3冊を通しての総合評価なら、10点を付けますよ。“ライヴァルたち”のなかで、その物語性において、唯一、ホームズ譚の牙城に迫る、ラッフルズのまこと楽しい(そしてやがて悲しき)作品世界を、是非一度、ご体験ください。

あ、未訳の長編と戯曲、いまからでもなんとかなりませんか、論創社さん?

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