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ミステリの祭典

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黄土の奔流
紅真吾

作家 生島治郎
出版日1965年01月
平均点8.00点
書評数2人

No.2 10点
(2018/06/21 21:33登録)
 本作の舞台は1920年代初頭の上海。租界によって各列強にモザイク状に分割支配された街区に、当時空前の経済発展を遂げたアメリカの資金が流れ込み、犯罪都市とも東洋の魔都とも言われるステキな空間を形成した時代です。原哲夫の「蒼天の拳」の舞台ですね。ああいう胡散臭い場所だと思ってもらえば良いです。

 32歳の誕生日に貿易会社を潰された紅真吾は、最後の散財とばかりに訪れた酒場で沢井と名乗る日本人を助け、その腕を買われた事で、天井知らずに値上がりを続ける豚の純白毛の買い付けを持ち掛けられます。
 勿論それには理由がありました。上海に限らず当時の中国は無政府状態。目的地重慶までの5000キロの激流には土匪や軍閥が割拠し、商売どころではないのです。
しかし真吾はスリルを求め、半ば捨て石扱いを承知しながら、乗組員を掻き集め重慶に向かいます。
長江5000キロを遡行する命知らずの船旅――「生命は保証せず」

 黒澤明の「七人の侍」の流れですね。主人公紅真吾、彼に惹かれながらも反発する謎の男・葉村宗明、大陸浪人真壁、元警官長谷川、優男の森川、久我少年、老船長、そして魯鈍ながらも忠実な下男・飯桶(ウェイドン)など、一癖も二癖もある連中が乗り組みます。船内で殺人も起こったりしますがアクセント程度。
 難所を工夫して越えたり、待ち伏せや銃撃を乗り切ったり、豚毛商人や軍閥の頭領との三つ巴の駆け引きが主体です。
 日本人に馴染みの薄い時代や場所を背景に、脇役に至るまでキャラを立たせ生き生きとした娯楽作品に仕上げた点は、いくら高評価してもし過ぎる事はないでしょう。
実際に大陸在住の"老上海人"だった作者の経験が、更に物語に厚みを加えています。最高の冒険小説です。

No.1 6点 kanamori
(2010/07/31 12:24登録)
日本での大正時代末期、中国大陸を舞台に上海-重慶間の揚子江数千キロの冒険行を描いた正統派の冒険小説で、ハードボイルド作家のイメージとはだいぶ異なるエンタテイメントに徹した作品。
主人公の紅真吾以下、寄せ集めのメンバーの素姓が少しづつ明かされていく所が面白い。作者が楽しんで書いたような痛快冒険ものでした。

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