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ミステリの祭典

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怪奇小説傑作集1
英米編、創元推理文庫

作家 アンソロジー(出版社編)
出版日1969年01月
平均点5.67点
書評数3人

No.3 6点 クリスティ再読
(2024/01/13 22:53登録)
ほんとうに幽的が出るのかい?

教祖平井呈一の編纂によるクラシックな怪奇小説アンソロで、しかも一番のクラシックを集めた巻。さらには翻訳も平井自身によるもの。いやねえ、平井呈一の文章に洒脱な江戸戯作の香りを感じるのがいい。大時代を大時代で訳したブルワー=リットンの「幽霊屋敷」から、モダニズム色を出した訳のブラックウッド「秘書奇譚」に至るまで、あたかも活弁の如き平井の八面六臂の活躍ぶりをまず楽しんでしまう。うん、平井呈一って凄かったんだなぁ...

でまあ、この巻にクラシック中のクラシックが集まっている。創元では例の「重複収録の回避法則」が働くために、怪奇小説の作者別短編集で、大定番が収録されない悪影響があるくらいのもので、傑作集を読まないなんてことがあり得ない級の重要アンソロである。
でも、怪奇小説の精華は短編にある、というのいうのも改めて感じる。ミステリはホームズの時代以降は長編主体のジャンルになっていると思うんだ。ミステリはミスディレクションを長くして風俗的要素を入れて、さほど冗長にならずに長編にできることが多いが、冗長な怪談は読者の緊張が持たない。だからまずアンソロや短編集によってその精華を味わうのが王道というものだろう。
そんなことを言いたくなるようなシンプルな切れ味勝負の「猿の手」「炎天」みたいな作品もあるし、見ようによってはコメディなブラックウッドの「秘書奇譚」もある。
しかし、マッケン「パンの大神」の錯綜した技巧的語り口ならば、これをラヴクラフトが精錬して自分の世界を築いたのがよく分かる。語り口の複雑化が読者の理解と記憶の容量を越えてしまっては何にもならないからこそ、この長さなのだろう。
そして名探偵登場!と言いたくなるようなレ・ファニュの「緑茶」。ヘッセリウス博士のようなゴーストハンターも、実はホームズの先祖の一人だと見ていけないのだろうか?

平井自身の解説の中で、ゴシック小説の「オトラント城奇譚」が、時代小説・怪奇小説・ミステリの共通祖先だという説を紹介しているが、まさに怪奇小説も「ミステリの別な流れ」のように見るのもそれなりの妥当性があるのだろう。

(このアンソロは、もともと東京創元社「世界大ロマン全集」の「怪奇小説傑作集」(全2巻)とやはり創元の「世界恐怖小説全集」(全12巻)をベースにして再編集したものになる。この本は平井自身の訳のものだけの巻というのもあり、世界大ロマン全集での1巻目から、ラヴクラフト「アウトサイダー」を抜いて「緑茶」をプラスした収録内容になっている)

No.2 6点 弾十六
(2022/02/13 11:14登録)
1969年出版。私のは1981年40版。ベストセラーですね。平井呈一編集で翻訳も平井さん。文章が良いなあ、と感心するのですが、今の人には少々古い?でも原作の時代には相応しいと思う。本書は一番新しいのでも1910年代、というクラシック揃い。昔のアンソロジーには初出年代が示されていないことが多くて、若い頃には調べる手段もないためイライラしてましたが、今はちょっと検索するとすぐ出てくるのでストレスが少なくて良いですね。「猿の手」の二百ポンドがどれくらいの価値を想定していたのか、発表年代が記載されてないとわからないですからね。
以下、初出はFictionMag Indexで調べたもの。
(1) The Haunters and the Haunted by Bulwer Lytton (短篇集1865)「幽霊屋敷」 ブルワー・リットン
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(2) Sir Edmund Orme by Henry James (初出1891)「エドマンド・オーム卿」 ヘンリー・ジェイムズ
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(3) The Diary of Mr. Poynter by M. R. James (短篇集1919)「ポインター氏の日録」 M・R・ジェイムズ: 評価7点
読ませる物語展開はさすが。古書の競場での出来事とかおばさんの愚痴の描き方が良い。オチも落語みたい(多分、訳者は狙ってやってる)。There are more things!
(2022-3-1記載)
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(4) The Monkey's Paw by W. W. Jacobs (初出Harper’s Monthly Magazine 1902-9 挿絵Maurice Greiffenhagen)「猿の手」 W・W・ジェイコブス: 評価7点
Wikiに挿絵が載っていました。あまりに有名な話だけど、あらためて読んでみるとO. Henry風味を感じた。Jacobsはこのころ本国Strand誌では続けて長篇を連載しており、米国Harper’sにもこの挿絵画家(英国人)と組んだ作品などが五、六篇掲載されていて人気作家だったことがうかがえる。
p147 二百ポンド♠️英国消費者物価指数基準1902/2022(130.96倍)で£1=20434円。
(2022-2-13記載)
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(5) The Great God Pan by Arthur Machen (単行本1894)「パンの大神」アーサー・マッケン
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(6) Caterpillars by E. F. Benson (短篇集1912)「いも虫」 E・F・ベンスン: 評価5点
怖い、というより気持ち悪い話。舞台はイタリアン・リヴィエラの別荘。ビジュアル・インパクトはかなり凄い。(私はアガサさんが中東の夜に見たある光景を思い出しました。結構、あの人タフなんだよね。『さあ、あなたの暮らしぶりを話して』参照)
(2022-2-14記載)
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(7) The Strange Adventure of a Private Secretary by Algernon Blackwood (短篇集1906)「秘書奇譚」 アルジャーノン・ブラックウッド: 評価8点
スリルを盛り上げる描写が素晴らしい。どことなくユーモア感を隠している文章。キャラにも血が通っている。
p268 スミス・ウェッソン会社の拳銃♠️Military&Police(1899年から)を推す。
p296 腕を組んできて
(2022-2-13記載)
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(8) August Heat by W. F. Harvey (短篇集1910)「炎天」 W・F・ハーヴィー: 評価5点
まあ趣旨はわかるが… 真夏の暑い日に読みたい作品。手練れならもっと上手に構成出来たのでは?
(2022-3-3記載)
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(9) Green Tea by Joseph Sheridan Le Fanu (初出All the Year Round 1869-10-23 作者名無し、四回分載?)「緑茶」 J・S・レ・ファニュ: 評価5点
医者の体験談。話を聞き出すための距離の取り方が面白い。恐怖物語、というより、こういう症例は結構あるように思う。実話っぽいなあ、という感じで受け止めました。
(2022-2-28記載)

No.1 5点 mini
(2012/08/20 09:57登録)
発売中の創元「ミステリーズ! vol.54 AUGUST 2012」の特集は、”真夏の夜に楽しむファンタジー&怪奇の調べ”
夏に幻想と怪奇特集組むのは早川ミスマガの専売特許かと思ったら創元もやるんだな、しかも今年亡くなったブラッドベリ追悼小記事もちゃんと載せてるし、早川ミスマガの方はブラッドベリには冷遇だな
早川には早川版、創元には創元版のアンソロジーで合わせよう、これ一応書評済だったんだけど削除して再登録

怪奇小説の翻訳で有名な平井呈一が解説も担当
全5巻という編成は、あの乱歩編『世界短篇傑作集』の怪奇版という線を狙ったものだろう
4巻はフランス編、5巻は独露編、1~3巻が英米編
毎度創元のアンソロジーにはケチ付けて申し訳無いが、やはりこの英米編も編集が気に入らない
創元の嫌いな理由の1つに、こうした何巻かに分ける場合、無理に各巻の本の厚みページ数を統一しようと画策し過ぎる傾向が有る事だ、チェスタトンの短篇集然り
第1~3巻が英米編って何だよ、第4巻と5巻が国別に分けてあるんだから、第1~3巻の内の1巻はアメリカ作家だけで纏めるとかすべきだろ
多分1巻だけアメリカ作家だけで纏めると、他の2巻より本が厚くなるのを避けたのかも知れん、いいじゃないかそれでも
とまぁ不満も多いのだが、1人1作で古今の代表的な作家作品を集めており、怪奇小説入門には絶好のアンソロジーである

サイト的にジャンル違いでは?との疑念を抱く人も居ようがそれは早計である
この第1巻では古典作家中心だが、怪奇小説の古典作家達が活躍したのはポーからドイル前後の時代で、当時はミステリーと怪奇幻想とは未分化な面もある
そもそもさぁ、ポーだって謎解き作品なんてごく一部で基本的に怪奇幻想小説の人だし、ドイルもホームズだけ書いていた訳じゃなくてホラーや伝奇ロマンもかなり多い
例えば第1巻収録のジェイコブズ「猿の手」なんて確かにホラーではあるが、このセンスはミステリーそのものでしょ

第1巻目は古典作家が中心で、冒頭のブルワー・リットンだけは流石にゴシック風で古色蒼然としているが、他は今でも読むに耐えると思う
M・R・ジェイムズ、マッケン、ブラックウッド、レ・ファニュなど、怪奇小説黄金時代を代表する成る程これらは落とすわけにはいかないよな、てな名前が並ぶ

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