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ミステリの祭典

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連合艦隊ついに勝つ

作家 高木彬光
出版日1976年07月
平均点4.50点
書評数2人

No.2 7点 クリスティ再読
(2025/06/06 21:05登録)
「第七の空母」は前振り。これが架空戦記の今回の本命。
というか、架空戦記の草分けみたいな作品でもある。

もし、あの時、指揮官が別な選択をしていたら?

架空戦記ってプロレスみたいなものだから、「ウソ」をどれだけ効果的に使えるのか?が実は見どころ。本作は太平洋戦争の海戦の中で、もし帝国海軍が「愚かな選択」をしなかったら、どうなっていたのかに限定した「IF」を追及している。もちろん、問題の「愚かな選択」は情報不足の中で指揮官が正しい情報を得られなくて、思い込みに引っ張られた結果でもある。ここでタイムスリップした後の時代の戦史に詳しい人間が、指揮官に正確な情報をアドバイスできるとすれば?

・もしミッドウェーで艦載機の雷爆転装をしなかったら?(史実ではそれに手間取り、艦載機が誘爆して空母が全滅した)
・ガダルカナル沖で敵輸送船団を打ち漏らさなければ?
・第三次ソロモン海戦にもし大和が加わっていたら?
・もし栗田艦隊がレイテ湾に突入していたら?

そんな「ウソ」を通じてその戦闘の結末を強引に覗いてみるというフィクションである。とくにミッドウェー&栗田艦隊あたりは戦史のポピュラーな話題だね。だからかなり戦術的なあたりに限定した「もし」なのである。

ミッドウェーで日本が勝っていたら?
こんなIFだとその後の戦史の展開が変わってきてもしまうから、本作では「日本惨敗」の結果が「痛み分け」くらいに緩和された程度。しかし第二次ミッドウェー海戦が起きてやっぱり史実通りに軍艦が沈むということになって、辻褄を合わせていく。「架空」というのはそもそも劇薬だから、作者の慎重さと節度が窺われて好感が持てる。
だからIFによって「こんな場面、見たかったね」を実現している作品だというべきだ。その見地だと、戦艦大和が戦史の中で活躍する舞台をしっかり作って見せているあたりに、作者の思いが見て取れる。現実にはあまりにもったいない使い方しかできなかったわけだから、日本人なら誰しも悔いが残っている。大和の活躍にスカッと溜飲が下せる読者がいるのなら、本作は成功したことになるというものだ。

なので架空戦記としては夜郎自大さがなくて、フェア感の強いものである。戦史に詳しければ...まあそんな人はとっくの昔に本書を愛読しているんじゃないかな。高木彬光としてはメインストリームの著作ではないが、それなりに影響力のある本じゃないかとも思う。その筋の読者の評判もいいようだ。本作みたいな作品だと、高木彬光の小説家としての弱点がまったく目に付かないから、おトクな作品でもあるね。

No.1 2点 江守森江
(2010/07/12 12:27登録)
無敵艦隊(スペイン)ついに勝つ!
ワールドカップ(南アフリカ大会)優勝おめでとう!
って書きたい為に今日まで登録せずに温存していた作品。
タイムスリップ型「もしも〜」戦記シミュレーション小説。
戦争関連の読み物は嫌いだが、作戦面を中心にした戦記だけは嫌悪感なく読める。
私的にミステリーの範疇に含めないので2点だが、高木彬光の代表作の一つなのは間違いない(一般なら7点)
妄想を発展させ、タイムスリップ小説にして勢いで書ききる辺りは作者らしさが存分に発揮されていてファンには嬉しい。
所々に史実に合わない誤解があるのもご愛嬌。
最終的に日本は敗戦国になりタイムパラドックスは起きない。

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