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ミステリの祭典

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銀座旋風児
二階堂卓也

作家 川内康範
出版日1959年01月
平均点4.00点
書評数2人

No.2 5点 人並由真
(2016/11/21 11:49登録)
(ネタバレなし)
 昭和30年代前半の銀座。高貴な出自と噂されども、自由と無頼を愛するがゆえに大戦中は軍部に睨まれて身を潜め、戦後7年目に帰国した青年・二階堂卓也。彼は持てる芸術家の才能で装飾デザイナーとして名を馳せて「二階堂卓也装飾美術研究所」を銀座の一角に設立。名誉も金もある義侠の快男児「銀座旋風児」として、弱き人々の訴えに応じていた。その二階堂卓也の身内らしき若者・二階堂明人。明人の正体は、戦時中、市民の供出物の管理を担当していた特務機関のリーダー・村越雄次郎の娘・明子だった。明子の父・村越は、堀田要助をはじめとする仲間4人に裏切られ、供出物隠匿の冤罪を着せられて処刑された身の上だ。明子の悲願を受け、供出物隠匿の真犯人・堀田たち4人の行方を追う二階堂卓也。「国民ノ物ハ国民ニカエセ!」 情報屋の政(政吉)ほか信頼できる周囲の仲間たちの協力を得ながら、銀座旋風児の活躍が続く。

<日活アクション映画>中期の人気路線で小林旭主演の同題シリーズの原作…かな。今でいうメディアミックスの小説版に近いかもしれない。こういうものが実際に存在するとは、つい今年になってから知った(原作というのは、映画用に川内先生が提出した原案シノプシスくらいに思っていた)。
 なお本当の原作はこの原型作品で1957年に貸本書籍の形で世に出た『銀座退屈男』らしく、59年の映画第一弾~第二弾の公開にあわせて同じ著者の川内先生が書いた本書(穂高書房・正確な奥付での発行は昭和34年3月5日。定価250円。ハードカバー)が刊行されている。書籍化の前に雑誌連載もあったかもしれないが、そこら辺はまだ未詳。
 
 筆者は、映画の方はしばらく前にテレビで第一話をふくめて数本視聴。映画評論家の渡辺武信が「日活アクションの華麗な世界」でクサす通りの脇の甘いシリーズだが、まあいいじゃないかと思って楽しんだ方である(笑)。小林信彦がこのシリーズの大ファン(というより当人は黄金期のアキラならみんな好きなようだが)であり、自作『神野推理』シリーズの一編にこの銀座旋風児を客演させたお遊びなんかも忘れがたい。小林信彦ファンなら、みんなそのままこのシリーズがスキになる?

 小説版の内容は、全267ページの紙幅のなかに、二本分のまったく別個の事件簿を収録。あらすじで書いた第一弾が映画一作目の内容で、そちらは154ページ目で落着。そのあとから映画第二弾に相応する事件(思想団体による偽札流布計画)が、前の事件の一年後という設定で始まる(特に章見出しを立てた区分けなどはされていない)。
 
 ミステリ的には他愛ない活劇ではあるが、第一話は敵味方の攻守のやりとりでそこそこ読ませる。第二話のほうは前半で事件の奥深さめいたものを煽りながら、結局は大したことがなく終わってしまうのは残念。第二話はラストも駆け足気味だが、それでも悪役の扱いなど、川内作品らしい持ち味が窺える気もする。
 なおこの小説版では、映画ほどに二階堂卓也が変装を活発にしていないことも確認。どちらもポイント的に変装術を披露はするが、筋立て上はあまり意味があると思えず、この辺は映画との連動か。原型『銀座退屈男』の方はどうだったのか、いつか確認してみたいものだ。

 ちなみに第一・第二話のどちらもクリスマス前後の事件で、宗教に一家言ある川内先生「キリスト馬鹿」を地の文で連発するのも興味深い。
 そういえば市井に偽札をばらまいて混乱を起こすのって『レインボーマン』の御多福会のルーツだね。『月光仮面』とかほかの作品でも類例があるかもしれないが。

No.1 3点 江守森江
(2010/07/07 22:06登録)
作者は森進一との「おふくろさん」騒動で一時期芸能界の話題をさらった頑固親父の川内康範。
この作品は和製ハードボイルドのハシリで都会のヒーロー二階堂卓也の活躍を描いている。
テレビ普及以前の都会(銀座界隈)の風俗が描かれノスタルジックではある。
当時、流行の最先端だった事は間違いなく‘マイトガイ’小林旭の主演で映画化もされシリーズも継続した。
こんな作品でもドラマのフィリップ・マーロウ程度にはハードボイルド(マフィアではなくヤクザが相手なのは日本だから許容範囲だろう)しているのでミステリー扱いで良いと思う。
もっともミステリーに含めると活劇(アクション)の面白さは評価対象ではない為に採点は低くなる。
※余談
二十年以上前に古本屋廻りで集めた春陽文庫の島田一男作品と同じダンボールに紛れ込んでいた。

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