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ミステリの祭典

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忍法八犬伝
忍法帖

作家 山田風太郎
出版日1964年01月
平均点6.00点
書評数2人

No.2 6点
(2021/10/02 16:56登録)
 忠勇無双の八犬士の活躍から百五十年余りのちの慶長十八(1613)年九月初旬、佞臣の口車に乗せられた安房九万二千石の若き太守・里見忠義が快楽を貪った代償に、家宝の "忠孝悌仁義礼智信" の八顆の珠が八人の女かぶきによって、似ても似つかぬ "淫戯乱盗狂惑悦弄" の偽物にすり替えられた。これぞ、重臣・大久保相模の一族につながる里見家取潰しを狙う本多正信―二代目服部半蔵ラインの会心の策謀。
 対するは甲賀卍谷での忍法修行すら放り出し、おのおの勝手に自由を満喫する八犬士の末孫八人。彼らと半蔵麾下からえらびぬかれた伊賀の女忍者八人の、熾烈果敢な宝玉争奪戦の結果やいかに?
 『伊賀忍法帖』及び『忍法相伝73』とほぼ並行する形で、「週刊アサヒ芸能」昭和三十九(1964)年5月3日号~同年11月29日号まで連載された、忍法帖シリーズ第十二作。『伊賀~』や本書の後続作品『自来也忍法帖』『魔天忍法帖』、さらには満を持して登場した大作『魔界転生(おぼろ忍法帖)』と、それまで年一、二作ペースだった発表数が計六作と飛躍的に増えているが、年末開始の『魔界~』を除けばやや粗製乱造気味で、顔ぶれを見てもあまり推奨できる長篇は並んでいない。
 それは比較的出来の良い本作についても言えること。軽業師や盗賊、軍学者や狂言師に乞食など、てんでばらばらに放埒な生き方を楽しんできた里見八犬士の子孫が、主君の奥方たる美少女・村雨姫に惚れた弱みで里見家お取りつぶしを賭け、徳川伊賀組の女忍者たちと凄絶な死闘を繰り広げる『風来忍法帖』系の筋立てだが、用いられる忍法自体二番煎じが多く、アイデアの練りも浅い。
 だが物語も2/3を過ぎて、身分を隠し伊賀の一党にさらわれた村雨のおん方を救うため八犬士の一人・犬塚信乃が、〈忍法肉彫り〉により村雨そっくりの顔に変えられる辺りからやっと面白くなってくる。軍師・犬村角太郎をも騙す、著者得意のヌケヌケとした人間入れ替えが二重三重に炸裂。さらに家宝献上の期限も一年から半年と一方的に縮められ、結局江戸城中で大立ち回りをする羽目に。この場面〈肉彫り〉の設定を思う存分使った最後の殺陣は絢爛そのもので、数ある忍法帖の中でもこの長篇ほど変装系能力を上手く活用した作品はまず無いだろう。
 ただしシリーズとして見ればトータル二線級。後の『八犬傳』とは異なり本歌取りに拘らず好き勝手に書いてはいるが、使用される忍法が少ないせいか中盤ややダレ気味で、後半の巻き返しでやっと6点といったところ。刊行回数の多さではトップクラスだが、佳作までには至らないか。

No.1 6点 kanamori
(2010/07/08 18:45登録)
馬琴の「南総里見八犬伝」を下敷きにした、その何代か後の里見家の同様のお家騒動。
家宝の八つの珠「忠・孝・悌・仁・義・礼・智・信」が、くノ一忍者によって偽物にすり替えられるが、偽珠の文字が「淫・戯・乱・盗・狂・惑・悦・弄」というのが笑える。
八犬伝の世界を巧く忍法帖にアレンジしているのはさすがです。

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