汽車を見送る男 リュカ(メグレシリーズと同じ世界) |
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作家 | ジョルジュ・シムノン |
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出版日 | 1954年03月 |
平均点 | 8.00点 |
書評数 | 2人 |
No.2 | 8点 | tider-tiger | |
(2023/03/21 01:10登録) ~キース・ポピンガは会社でそれなりの地位に就き、決まり切った毎日を送る生真面目な男。世界各地の花の絵がおまけについているからと特定の銘柄のチョコレートばかりを買うような男。だが、社長の悪さに巻き込まれてすべてを失うことになってしまい、だったらいっそ……汽車は軌道をはずれていくのであった。 1938年フランス。シムノンお得意の逸脱の話です。素直に読めば他者に運命を決定されることを拒否して、その縛りから逃れようとする話なのでしょうが、どうにも腑に落ちない描写があったりもして、どんな読み方をすればいいのかと考えてあぐねている部分もあります。いずれにしても面白い作品です。特に後半はスキーの上級者のようなクイックイッと小気味よく曲がりながらの直滑降で飽きさせません。ラストもいい感じです。犯罪心理を描いた小説が好きな方にはお薦めします。 とりあえず訳が古くて読みづらいのです。變とか歸とか實とか勘弁してください。まあそれはともかく。 自分は本作の緊張感と脱力感が交互に訪れるところ。スリリングでユーモラスな点がとても好きです。 ポピンガは『太陽がいっぱい』のように場当たり的で、『太陽が眩しくて』なみにすっとぼけていて、そのくせ気に入らないことを新聞に書かれるといちいちツッコミを入れたうえに手帳にそれを書き込んだりもする粘着質な面もあり、なんだかおかしみを感じさせます。 一緒にいた女に「あんた人を殺したでしょう?」と追及されても「それよりもご飯を食べたい」などと言い出す始末。 自分がシムノンを読んで、強く異邦人を意識させられた最初の作品はこれでした。 作中、ポピンガは「夜汽車というのは二度と戻ってこないような気がする」みたいなことを言っておりました。自分は「結局のところ汽車は軌道をはずれて走ることはできない」などと思うのです。ポピンガの趣味がチェスであることは象徴的なように感じました。 瀬名さんがれいのコラムでシムノンがハメットを読んでいたことに言及されていました。ああなるほどと思いました。 自分はジム・トンプスン、パトリシア・ハイスミス、そして、シムノンの三者はどこかつながっているように感じていました。ここにハメットを入れてもそれほど違和感はなさそうです。 ついでに違和感ありありですが、シムノンはチャンドラーも読んでいたのではないかと想像しております。 御存知の方も多いと思いますが、ハヤカワから立て続けにメグレものが出版されます。刊行が決まっている、もしくは発売済は以下の三作です。 『メグレと若い女の死【新訳】(発売済+映画化)』 『サン・フォリアン寺院の首吊人【新訳】(5月発売予定)』 『メグレと超高級ホテルの地階【初の書籍化】(発売日未定)』 自分が新訳を熱望していたのは『サンフォリアン寺院の首吊人』と本作『汽車を見送る男』です。 どちらも面白い作品なので新訳で出せば新たなシムノンファンが生まれることを期待できると思います。後者だけでも実現したのは非常に嬉しい。 発売済の『メグレと若い女の死』は読みました。近々新訳と旧訳の比較をしたいと思っています。映画を観てからかな。ちなみに『メグレと若い女の死』は中学生文庫版(雑誌の付録)で『かわいそうな娘』と改題されて出版されています。 そろそろ書評をと思っていた自分の中ではセットになっている二作『男の首』『サン・フォリアン寺院の首吊人』は後者の新訳を読んでから書評することにします。 |
No.1 | 8点 | 空 | |
(2010/06/14 21:44登録) シムノンの数多い犯罪者の側から描かれた小説の中でも、この犯罪者はチェスが得意で、警察を出し抜こうといろいろ策を廻らしたりするという意味では、ミステリ的な味わいのある作品です。メグレもの『オランダの犯罪』でも舞台となった港町デルフザイルで話は始まりますが、すぐにアムステルダムを経由して舞台はパリに移ります。 新潮社の翻訳では、主人公の犯罪者が敵役として意識する警視はルーカスとなっていますが、これはメグレものでおなじみリュカ(Lucas)のことでしょう。この英語風な人名読みから考えても、またフランス語の原題ではなく英語題名が記載されていることからしても、翻訳はどうやら英語版を元にしていると思われます。 その翻訳は、主人公が時々書き記すメモで自分のことを「余」と訳す(将軍様じゃあるまいし)など、あまりに古くさい言い回しです。しかしその点を差し引いても、犯罪心理小説の傑作だと思います。 |