home

ミステリの祭典

login
走れホース紳士

作家 石川喬司
出版日1982年03月
平均点6.00点
書評数2人

No.2 6点 人並由真
(2020/06/16 16:28登録)
(ネタバレなし)
 のちのちまで日本競馬史にその名を轟かせる名馬ハイセイコーがまだ現役の昭和の時代。少部数のミステリ小説専門誌「推理マガジン」の編集部員である30歳の独身、泉大五郎はダービーで手痛い負けをこうむった。そんな彼はその夜、ひとけのない東京の本馬場で「増沢ハイセイコー」と名乗る、闇の中を奔馬のようにランニングシャツ姿で走る謎の老人に出会った。独特の競馬観とロジックをそなえた増沢老人に興味を抱く大五郎だが、増沢はNHK(ニホン・ホース・キチガイ連盟)の会長だと自称。増沢老人は大五郎に、わずか200円で馬主になれるというNHKへの入会を勧誘する。これが大五郎を伏魔殿たるNHK、そしてさらに競馬の世界の迷宮に引き込む事態の始まりであった。

 現状で本サイトにも、そしてたぶんAmazonにも、登録されていないが、元版は1974年4月号5日刊行のノン・ノベル(祥伝社)。
 もともとは「東京スポーツ」「大阪スポーツ」ほかに連載の『ウマの神様』を主体に、「報知新聞」に連載の別作品『明日の手帖』の一部を加えて大幅に加筆改訂、とある。主人公の大五郎が中盤で福島に競馬がらみで旅行に行ったり、やはり後半でパリに行ったりするので、もとはその辺りが別の主人公のストーリーだったかもしれない?

 大昔に古書店でかき集めた「ミステリマガジン」バックナンバー連載の新刊翻訳ミステリ月評「極楽の鬼(地獄の仏)」や「世界ミステリ全集」関係でさんざんお世話になった(もちろんあくまで一ミステリファンとして。一部、ネタバレで多大なメーワクをかけられたが・怒)石川喬司の実作長編。
 すでに大昔から短編は何作かミステリマガジン誌上で読んでいたが、長編は「そんな石川が書いたミステリ長編作品」ということで関心をいだいて何十年も前に購入しておきながら、ずっと家の中のコヤシであった(笑・汗)。
 だって作者が筋金入りの自称・馬家(「ばか」と読むそうな)なのは「極楽の鬼」を楽しんでいた当時からつくづく思い知らされていたけれど、こちら評者は競馬にまったく関心のない人生を送ってきた。そしてまさにこれは、ガチの競馬ネタのミステリなんだもの。あまりにも敷居が高かった。
 
 とはいえなんのかんの言っても、あれだけとにもかくにも当時のミステリを読み込んだ作者なんだからその辺の作法は心得て、シロートでも一見でもある程度のコトは解説してくれて、最低限は楽しめるエンターテインメント&ミステリになっているだろう? と予期しながらようやく、ウン十年目にしてページをめくる。
(思えば青少年時代にフランシスの競馬スリラー(競馬ミステリー)も、どこか似たような敷居の高さで、最初の一冊を手にしたのだった……。)

 それで読み終えての感想だが、競馬界のウンチクと当時の斯界への見識をたっぷり聞かされる前半は、門外漢にはほんのすこし退屈(汗)。
 とはいえ基本的にマンガチックな描写の連続するギャグユーモア作品で(ノン・ノベル版の肩書は「長編抱腹推理小説」!)、さらに明らかに「ミステリマガジン」をモデルにした「推理マガジン」編集部周辺のネタもちょっとだけ出てきて、その辺もふくめてそこそこ楽しめる(なお主人公・大五郎の恋人の野村マリは大学の後輩の27歳の娘で、「推理マガジン」に翻訳原稿を載せているミステリの翻訳家という設定。適度なお色気もある)。あのヘンリイ・スレッサー(O・H・レスリー)の競馬ネタの短編の話題とかが飛び出してくるのも、実に楽しい。もちろんフランシスの諸作についても言及される。
 ちなみに、もともとミステリファンだった大五郎が「推理マガジン」編集部に入った目的のひとつは、この職場でミステリの見識を高め、乱歩の「類別トリック集成」のアップ・トゥー・デート版を作ろうと思ったからというのも、ちょっといい話、ではある。

 物語が割と面白くなってくるのは大五郎が福島の地方競馬場に旅行にいく辺りから。さらに話が進んでどうやってNHKが奇妙なシステムで利益を上げているか、カモを食い物にしているかのロジックが小出しにされ、翻訳ミステリ風のコン・ゲームを裏から覗くような本作の楽しみ方が見えてくる。 
 一方で奇人変人の登場人物たちも賑わい(パリ編で登場する「映画版のクロード・ルベル警視そっくり」という設定のキャラクターがいろんな意味で特にいい)、後半はフツーに面白くなった。終盤の仕掛けも、エンターテインメント読みものとしての、ダメ押し的な快感がある(いかにも昭和ミステリっぽい感じではあるけれど)。
 総体的には佳作以上といっていいんじゃないかしらね。昭和の競馬好きはもちろん、歌謡曲などのネタも多いので、当時の昭和の風物が好きなら、さらに楽しめるだろう。
(ちなみにノン・ノベル版には挿絵が豊富に掲載されているが、これが往年のミステリマガジンでもおなじみの畑農照雄。本作の作風にマッチして、実にいい味を出している。)
 
 なお途中で競馬界の不正や妨害が話題になるシーンがあるのだが、そこで、ミステリのエチケットとして詳しくは書かないが、とかいいながら、フランシスの『興奮』の大ネタをかなり暗示してしまっているのがアレ。もっとポイントを曖昧にするとか、書きようはあったと思うヨ。いかにもこの辺は作者らしい(笑)。

 あと1987年の同じ作者の『ホース紳士奮戦す』は本作の続編なのかしらん? webで検索しても情報が出てこない。そのうちどっかで調べてみよう。

 最後に、作者の石川喬司ってまだ90歳でご健在なんだよね? 可能ならお元気なうちに60~70年代のミステリマガジンやミステリ全集などについて、当時のことをぜひとももっといろいろと語っていただきたい。

No.1 6点 江守森江
(2010/05/30 03:31登録)
第77回東京優駿(日本ダービー)デーにちなんでの競馬ミステリー書評は、SF分野では評価の高い石川喬司作品で締めくくろう!
ダービー当日の夜に東京競馬場を走っていたら(実際は警備が厳しく侵入出来ない?)怪しい増沢ハイセイコーと名乗る老人に出会い、彼が会長をしているNHK(ニホン・ホース・キチガイ連盟)に入会を勧められ、二百円馬主や馬券を買えば必ず儲かる秘密組織・競馬銀行の謎に挑む怪作。
競馬・ユーモア・コンゲームをごった煮にした作品で、馬券ファンやハイセイコー世代には懐かしさと楽しさが混在する嬉しい作品だった。
※ダービーに纏わる余談
NHK杯まで不敗を誇り、怪物の名をほしいままにしていたハイセイコー(増沢騎手)が日本ダービーで3着に敗れ、逆に日本中のアイドルになった事が懐かしく思い出される。

2レコード表示中です 書評