悪意銀行 近藤&土方コンビ |
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作家 | 都筑道夫 |
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出版日 | 1963年01月 |
平均点 | 5.00点 |
書評数 | 2人 |
No.2 | 6点 | 雪 | |
(2020/07/17 07:09登録) 名人気質から転がりこんだ女のアパートを追い出され、落語家の内弟子として食いつなぐ羽目に陥った近藤庸三。なにか儲け話がないかと腐れ縁の相棒・土方利夫のビルを訪ねると、そこで彼に〈悪意銀行〉なる思い付きを披露される。世間に広く犯罪のアイディアを募り、土方頭取の仲立ちにより利益が生じた暁には、発案者にそれまでの利子を付けて返すというのだ。 たまたま訪れた融資者との会話を窓にぶらさがって立ち聞きした近藤は、ある小都市の市長暗殺についての商談を小耳に挟む。市制記念祭と市長選挙に沸く、愛知県で三番めの大きさの巴川市。この商都の現市長・酒井鉄城を、できるだけ派手に殺ってほしいらしい。やり手の酒井は娯楽機関を増やして工場を誘致し、十万ちょっとだった人口を倍ちかくに増やしたが、白熊みたいな老人にはそれが面白くないのだ。 近藤はすぐさま土方よりさきに巴川へのりこんでひっかきまわし、悪意銀行の利益をピンハネしようと目論むが・・・ 雑誌「週刊実話特報」1963年1月3日号~1963年2月7日号まで、5回に渡って連載された同題中篇に、大幅な加筆を施して長篇作品に仕上げたもの。同誌の連続企画「五週間ミステリー」の一環で、大河内常平『妖刀流転』を皮切りに、本書を含め山村正夫『崩れた砂丘』河野典生『女だらけのブルース』などが掲載されました。 目の回る展開だった前作に比べて構図はシンプルで、現市長を推す氷室一家(商事)と対立候補を擁する渋田一家(産業)の二大やくざの対立に、例によって暗殺計画を利用してカネを掴もうとする近藤&土方コンビが絡むクロサワの『用心棒』的展開。誰に雇われたとも知れぬ黒ずくめの殺し屋・松井なにがしこと無精松登場の傍ら、われらが近藤はやくざや市長に引っ付いては離れ、監禁されたあげく脱出時には殺人容疑者にされたりと散々。エピローグでは性転換希望のホモ暗殺者に迫られ、羽織袴で遁走するはめに。 ただし最初に登場する白熊みたいな暗殺依頼者の正体はなかなか掴めない。凄腕ガンマンの無精松を誰が雇ったかも分からない。五里霧中のままクライマックスの記念パレードになだれ込んでいき、アクションシーンの末に真の黒幕が割れる仕掛けです。 角川文庫版表紙の「a lack-gothic thriller(落語的スリラー)」の謳い文句の通り、スラップスティック味の強い作品。とはいえ暗殺プランの趣向や前作以上の銃撃戦、殺人事件の犯人や裏の構図など、食い足りなくなった分ミステリとしてはかなり読み易い。こなれ具合はこちらの方が上でしょう。 内容とはほぼ無関係なタイトルですが作者は気に入っていたらしく、併録中篇「ギャング予備校」に登場するスパイアイテム好きの御曹司や本作中途でフェードアウトする女性らを登場させて、シリーズ三作めの『第二悪意銀行』を書く予定があったそうですが、無念にも構想のみに終わりました。風化した時事ネタがややキツいですが、他の部分はそこそこ楽しめる作品です。 |
No.1 | 4点 | 江守森江 | |
(2010/07/02 03:47登録) 前作よりコンビとしての連携は良くなったが、前作でも感じた笑いの古臭さが強まってしまった。 スラプスティック・コメディに徹する筈の作品だがミステリとしての気付きや展開が、それを阻害していると感じてしまう。 ナンセンスな笑いに徹してミステリ色を極力排除するには都筑の本質がミステリ作家過ぎるのだろう。 それでも、作品の展開に関係なく挟まる下ネタは楽しい。 ※光文社文庫の都筑道夫コレクション《ユーモア編》で読んだので、同シリーズの短編「NG作戦」「ギャング予備校」の他、ショートショート2編に落語4題も収録されている。 都筑道夫コレクションでミステリーとは関係無い《下ネタ編》を出版してほしかった。 |