home

ミステリの祭典

login
奥の細道殺人事件

作家 斎藤栄
出版日1977年01月
平均点5.50点
書評数2人

No.2 5点 クリスティ再読
(2024/02/19 13:42登録)
本作は「ミステリ論」的に重要な作品で、そこそこ有名作というイメージがあったが、今は完全に埋没しているようだ。うん、トリックのフェアorアンフェアという面で、今の人に読んでもらいたいと思うので、評者斎藤栄はあまり得意ではないが、今回取り上げることにした。

芭蕉「奥の細道」の研究者に殺人の容疑がかかった。しかし犯行当日、研究者には東北旅行の鉄壁のアリバイがあった。状況証拠で真犯人なのは間違いないが、同行者の証言によって犯行は不可能...

いや、犯行場所の錯誤とかそういう話じゃないのがミソ。前提条件に大きな作為があるネタなので、普通のミステリファンは「アンフェア!」というタイプ。だから「こういうの、どこまでやっていいの?」という線引きもマニアなら考えなきゃね...とは感じる作品なのだ。
斎藤栄でも初期作で、意欲的にパズラーを書いていた頃の作品である。今でいうメタミステリを「ストリック(ストーリー+トリック)」なんて造語で呼んでいた。だからこそ評者もこういうアンフェアと戯れる本作みたいな作品を「ミステリ論的に重要」とも評価するわけだ。
で、時代柄、公害問題+汚職なんて社会派ネタに、さらに斎藤栄の趣味の将棋(出世作が乱歩賞の「殺人の棋譜」)に加え、芭蕉忍者説を扱う歴史ミステリに、さらには終盤のアリバイチェックがトラベルミステリー風情をかきたてる...とまあ、欲張りにも程がある作品。その分長くなって八方美人なあたりが、埋もれた理由なのかもしれないな。

「線引き」という面でいえば、本作は芭蕉忍者説を扱って歴史ミステリの側面もある。まあ、評者「成吉思汗の秘密」を酷評した経緯もあって、歴史ロマンとは言ってもね、という冷静な面があるのは自覚している。だから、基準としては
・今生きている人に迷惑をかけない
・証拠の捏造をしない(客観的な根拠なしに怪しげな挙証に加担しない)
ならば、どんな荒唐無稽な「歴史推理」でも、フィクションと笑って済ませようとは思うんだ。「成吉思汗」はこれを犯しているから酷評しているだけだ。そもそも芭蕉忍者説は「どうやったら証明完了になるのか?」というゴール設定が現実的ではないから、学術的に取り上げるのに無理がある。結果、状況証拠の考察以外は、奥の細道を暗号解読して...という無理筋の推理を披露しているだけの話。しかも証拠となる解読キーを「火事で燃えた」と撤回しているから、あくまでフィクションの色付け程度に捉えるべきだろう。

というわけでメイントリックのアンフェア論争と、歴史ミステリの倫理と、重要な作品だと思っている。皆さまのご意見も伺いたい。

No.1 6点 kanamori
(2010/06/22 18:49登録)
松尾芭蕉=忍者説や汚水公害問題など色々な題材が織り込まれていて、作者の作品のなかではまずまず面白く読めました。
ミステリの趣向としては芭蕉ノートの暗号はともかく、死んだ容疑者のアリバイ崩しや反則すれすれの意外な犯人の設定(ちょっと伏線が不足ぎみですが)など、初期作らしい本格度の高い内容でした。

2レコード表示中です 書評