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ミステリの祭典

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北の廃坑

作家 草野唯雄
出版日1981年01月
平均点6.00点
書評数2人

No.2 6点 人並由真
(2022/05/19 14:52登録)
(ネタバレなし)
「わたし」こと某大手企業に勤務する独身の青年・清水大三は、半年前に2年間の北海道勤務を終えて本社に戻ったところだった。そんなある日、ともに常務である小野と下田のふたりに呼び出された清水は、四国山脈にある自社鉱山「杉浦鉱山」で何か不正の収益が行われているらしいので、潜入捜査しろとの特命を受ける。それはかつて清水が大学時代にアマチュアの調査員として働いた実績があるからであった。清水は「野田四郎」の変名で、まず鉱山の外注会社でトラック輸送業の「竹内組」に就職。さらにタイミングを見て、鉱山の内部に潜入するが、そこでは想像以上の巨悪と生命の危険が彼を待ち受けていた。

 昭和44年9月号の「推理界」に一挙掲載された短めの長編。Amazonにはデータがないが、元版は青樹社から1970年6月に刊行されている。評者は徳間文庫版(男の顔の表紙の方)で読了。徳間文庫の解説は、その「推理界」の編集長だった中島河太郎が、作者のデビューとその直後の軌跡を回顧する方向で書いていて、なかなか興味深い。

 文庫版で210ページちょっとの本当に紙幅のない長編だが、もともと作者・草野はかつて「明治鉱業」に就職し、長年、愛媛県の鉱山で鉱山スタッフとして勤務していたとのことで、さすがに臨場感と細部のリアリティは凄まじい。
 推理小説の要素はあるものの、どちらかというと地下・山中の地中空間を舞台にした冒険小説寄りのサスペンススリラーで、和製ガーヴを醬油味でうっすら煮込んだらこんなのになるという感じ(特に中盤からの主人公のクライシス描写は絶妙)。後年には良くも悪くもかなり筆が軽くなる草野作品だが、初期作の本作では全体に骨太な筆致であり、その辺も妙に新鮮だった。
 さすがに全体が短い分、さほど事件の奥行きは広がらないが、それでも終盤には意外性などのサプライズはちゃんと用意されている。
 評点は7点に近いこの点数ということで。うん、やっぱり和製版の英国冒険スリラー作品の感触。

No.1 6点 kanamori
(2010/05/05 13:15登録)
お得意の炭鉱を舞台にしたサスペンス・ミステリ。
ある鉱山の不正疑惑を解明するために、会社から潜入捜査を命じられた主人公の危難の連続をサスペンシフルに描いていて、同じ炭鉱ものの長編「影の斜抗」とは異なり、本格ミステリの趣向はあまり見られません。その分、ストレートなスリラーとしてまずまず楽しめました。

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