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ミステリの祭典

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不屈
競馬シリーズ

作家 ディック・フランシス
出版日1997年10月
平均点6.00点
書評数2人

No.2 5点
(2019/06/07 03:03登録)
 スコットランド・モナリーア山系にある羊飼い小屋で孤独な生活を続ける画家、アリグザンダー・キンロック。彼は母から義父アイヴァンが心臓発作で倒れたとの知らせを受けたその日、山中で四人の男に襲われ暴行を受けた後、崖から突き落とされる。「あれはどこだ? どこにあるんだ?」だが、彼には何の心当たりも無かった。
 アリグザンダーは辛くも命を拾い、全身の怪我を推してロンドン、パーク・クレセントの屋敷へ赴くが、アイヴァン・ジョージ・ウェスタリングの衰弱は思った以上に激しく、その上彼の経営するキング・アルフレッド醸造会社は、経理部長の横領、逃亡行為により破産寸前だった。
 実の娘パッチイ・ベンチマークを差し置きアリグザンダーに全権を委任したアイヴァンは、競走馬ゴールデン・モルトを管財人から隠すよう秘かに指示する。その事からアリグザンダーは、暴漢たちが探していた"あれ"が二十二カラットの純金に赤、青、緑の宝石をちりばめた中世のトロフィー、〈アルフレッド大王のカップ〉ではないかと思い当たる。アイヴァンの話では、カップをアリグザンダーに託すよう伯父の"殿様"こと、スコットランドのロバート・キンロック伯爵宛に送ったとのことだった。
 アリグザンダーは母ヴィヴィアンと義父の為、彼の愛する競走馬とカップを守りながら、同時に醸造所を建て直そうと試みるが・・・
 競馬シリーズ第35作。1996年発表。この年のフランシスは前作「敵手」によりMWA長編賞受賞、さらにこれまでの功績を称えMWA巨匠賞も同時受賞しており、言わばメモリアルイヤー。当然、本書にもこれまでになく力が入っています。
 主人公はスコットランド貴族の血を引きながらも持って生まれた孤独癖から世間を離れ、醸造所を継がせるという義父の申し出も断り、調教師の妻とも離れて暮らす世捨て人。「反射」「黄金」系地味主人公の総決算的人物なんですが、そこはやはりフランシス。義理の姉パッチイ夫婦とのいさかいにも耐え、私欲無く会計監査人トビアスや超過債務処理者マーガレット、百面相探偵"ヤング・アンド・アトリイ"と協力し、力の及ぶ限り全てを守ろうとする姿勢はタイトル通りの不屈っぷり。再びスコットランドに向かいカップを保護した後、鑑定の為に招かれた老女性学者、ゾウイ・ヤング博士と出会います。
 彼女の姿に創作意欲を刺激され、絵筆を取るアリグザンダーの描写がこの作品のクライマックス。対象の魂までも見透かし、絵の中に写し込もうとする芸術家の姿は美しい。あとがきにも〈悟りの境地〉とかありますが、それほどの気迫です。
 それに比べると、事件の方はややありきたりかな。ヒーローの精神性がこれまでになく高まっているので、それに見合う悪の凄みが欲しかったんですが。サディズムに溺れて本来の目的を見失うような黒幕なのでつまりません。レッドへリングがちょっとあるだけで、偽装もほとんどなし。
 全体的な印象は「直線」の進化形。あっちは宝探しで、こっちは宝隠しですけど。地味な力作ですが、エンターテイメントとしてのバランス悪さが難です。

No.1 7点 kanamori
(2010/04/18 19:20登録)
近年の競馬シリーズでは一番好きな作品です。
伯爵家の血を継ぐ孤独感のある若い画家が主人公で、義父の会社の横領事件と財宝探しに巻き込まれる話。
競馬シリーズとする必要がないほど、殺人や派手な陰謀は出てこないし、競馬は全然本筋と関係がない。
初期作に比べるとどちらかと言うと地味な作風ですが、登場人物はいつも以上に魅力的ですし、主人公が徐々に不屈の精神を発揮してくる所は、いつものフランシス節です。
特に、おしゃれで余韻が残るエンディングがよく出来ていると思いました。

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