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ミステリの祭典

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ジャックは絞首台に!
キャロラス・ディーン

作家 レオ・ブルース
出版日1992年07月
平均点5.50点
書評数2人

No.2 6点 人並由真
(2020/05/19 03:04登録)
(ネタバレなし)
「ニューシスター・クイーンズ・スクール」の上級歴史教師にしてアマチュア探偵として実績を積むキャロラス・ディーン。校長ヒュー・ゴリンジャーは、キャロラスの探偵としての勇名ばかり特化して高まるのは、学校の評判によくないと考えた。そんな折、黄胆の療養のため、地方で静養する必要が生じたキャロラス。ゴリンジャー校長はキャロラスの主治医であるドクター・トーマスに手を回し、当初の静養予定地だった殺人事件が起きた海岸ではなく、閑散とした温泉地にキャロラスを向かわせる。だがそこでまたもキャロラスを待っていたのは、同一犯人による? または何らかの関連があると思われる? 二件の連続老女殺人事件だった。

 1960年の英国作品。
 謎解きミステリのお約束パターン、犬棒ならぬ<名探偵も休暇に出れば事件に遭遇する>をひねって開幕する導入部がいきなりケッサクで、評者なんか個人的にはコレだけでもうご機嫌になってしまう(笑)。

 さほど間を置かずに生じた二件の老婦人殺人事件。そして死体の脇にそれぞれ置かれた百合の花(マドンナ・リリーという品種)の謎。双方の被害者同士には互いに接点があるような、ないような? というミッシグリンクの謎……と、それなりのミステリギミックは用意されている。

 登場キャラクターたちもひとりひとりおおむね丁寧に語られ、田舎町でキャロラスが出会う多彩な人々も、キャロラスを追っかけてくる教え子で悪童のルパート・プリグリーや、ついに事件が起きた町にまで推参してくるゴリンジャー校長まで存在感は抜群。
 キャロラス・ディーンが有名なアマチュア探偵だと素性を認めた瞬間、いきなり現在形の殺人事件の話題をふっかけ、あれやこれやと多重解決を仮想するホテルのボーイ、ナッパーのキャラクターなんか特に笑わせる。
 162~163ページでキャロラス・ディーンと教え子プリグリーの会話の中、矢継ぎ早に飛び出すゴジラだのホームズだのポワロだのレイモンド・チャンドラーだのという固有名詞の波状攻撃も愉快であった。
 さらに182ページの、詐欺師まがいの商人を相手にしたキャロラスのメタ的なギャグにも爆笑。
 笑えるという点では、これまで読んだレオ・ブルース作品のなかでもトップクラスかもしれん。

 かたやミステリとしてのトリック……というか犯罪のコンセプトは、某大家の有名作品の変奏ではあるが、名探偵役であるキャロラス・ディーンの取り組み方までふくめて、本作独自のバリエーション感は認められる。しかしこれもまた名探偵もしくは捜査陣がある段階まで動いてくれることを期待しての犯人側の思惑だね。もちろんここでは詳しくは言えないけれど。

 なお巻末の小林晋氏の丁寧な解説でも指摘されているが、本作は得点要素は多い一方、最後の真犯人を絞り込んでいくキャロラス・ディーンの推理がいささか荒っぽいのが難点。特に281ページの後半である容疑者を圏外に外すあたりは「あのなあ……」という感じであった(苦笑)。
<犯人になりうる者の条件>を箇条書きにした演出も、本来ならその箇所で読者をゾクゾクさせるか、あるいは読み手をうまくミスディレクションに誘導すべきところ、かえって最後のサプライズの効果減でしかなかったし(……)。

 全体としては、あれこれプラスマイナスして、佳作というところ。
 ただしこのシリーズへの興味と好感の度合いは、さらに高まった。
 キャロラス・ディーンものの未訳作品はどしどし発掘してほしい。同人(「AUNT AURORA」叢書など)で翻訳されている数作の長編も一般販売の文庫にどんどん入れてほしい。
 関係者の皆様、なにとぞよろしくお願いいたします。

No.1 5点 kanamori
(2012/10/16 18:33登録)
病後の静養のため温泉町を訪れていた教師ディーンは、老婦人の連続絞殺事件に巻き込まれ、またまた探偵活動に乗り出す、という歴史教師キャロラス・ディーン・シリーズの7作目です。
現代教養文庫の”ミステリ・ボックス”は、修道士カドフェル・シリーズは別格としても、ディヴァインの本邦初紹介をはじめ、イネス「ある詩人への挽歌」、ステーマン「ウェンズ氏の切り札」など、マニアックな作品選定が好ましかったレーベルです。レオ・ブルースも例に洩れませんが、ただ訳出されたのが本書というのはどうだったかなと思います。
メイン・トリックに有名な先例がある点はあまり気にならなかったのですが、ディーンが目立たず解決の手法もいまいちぱっとしません。他のレギュラー陣のゴリンジャー校長や生徒のルパート、温泉客の面々は個性的でやり取りは面白いのですが。

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