クリヴィツキー症候群 岡坂神策シリーズ |
---|
作家 | 逢坂剛 |
---|---|
出版日 | 1987年01月 |
平均点 | 6.50点 |
書評数 | 2人 |
No.2 | 7点 | 人並由真 | |
(2020/07/17 03:07登録) (ネタバレなし) 御茶ノ水駅のそばにある小さな事務所「現代調査研究所」の代表で、スペイン現代史の研究を趣味とする「わたし」こと岡坂神策を主人公とする全5編の連作中編集。 お仕事は、調査業務全般に加えて翻訳や雑文書きまで幅広くこなす岡坂。ただし主人公のそういった素養から、スペイン近代の史実にからむ依頼も多く、その流れから同分野に関連した事件に発展するのことも何回か。 例によって蔵書の山をひっかき回していたら、いつ買ったかまったく覚えていないが、たしかにこんな本を購入した記憶だけはある、という一冊が出てきた。逢坂作品は一時期、SRの会の例会に出ていた頃に関心が湧いて何冊か古本を買ったと思うが、しっかり読んだ覚えは一度もない。じゃあ、この機会に……程度の弾みでなんとなく読んでみたが、これが全五本、どれも期待以上に楽しめた。 キャラクター、語り口、エピソードごとにひねりを自在な形で見せるストーリーテリング、どれも上質だが、何より意外で嬉しかったのは、望外にミステリファン向けのサービスというか、洒落た趣向が設けられていることであった。 その辺もネタバレになるのであまり詳しくは言えないが、第一話「謀略のマジック」では、う、シリーズ初手からこういう攻めの作りで来るか、と唸らされ、のちにこの開幕編の狙いもなんとなく、改めてまた見えてくる(たぶん……)。 第二話「遠い国から来た男」では、前述の外連味が爆発。ああ、そういうこともやってくれるのか、とテンションが上がった。 第三話「オルロフの遺産」は本書中、最もミステリ的に手堅く高質な出来だと思うが、乱歩の『幻の女』の原書を巡る勇名な争奪騒ぎを思わせる序盤から開幕し、その辺の楽しさも得点評価。 第四話「幻影ブルネーテに消ゆ」は、ある意味で一番インパクトがあった。ここであの有名な世界名作短編と同様のネタを見せられようとは! ちなみにこれを読んで、前述の、第1話のまた違った側面に思い当たった。 第五話の表題作「クリヴィツキー症候群」は本書中、一番トリッキィな作品ではあるが、リアルではまあ……でも小説(フィクション)ならギリギリかな、というラインで攻めてきていて、どことなくその天然っぽいある種の豪快さが、昔の「宝石」とかに載った一発屋の新人作家の作品的な感触を思わせる。いやけなしてるのではなく、そういう味もまた国産短編ミステリの魅力のひとつの系譜ということで。 とにかく逢坂作品、まだ一冊読んだきりでものを言うのはナンだが、予想以上に楽しめた。家の中のどっかに眠ってるはずの長編作品も早く見つかればいいが。 |
No.1 | 6点 | kanamori | |
(2010/04/09 00:07登録) 現代調査研究所・岡坂神策シリーズの連作ミステリ短編集。 いずれも、スペイン内戦が背景にある謀略がらみのサスペンスで、現代史ですが一種の歴史ミステリとしても読めます。 表題作と「謀略のマジック」が印象に残りました。 |