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ミステリの祭典

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さよならは2Bの鉛筆

作家 森雅裕
出版日1987年07月
平均点6.50点
書評数2人

No.2 7点
(2020/10/18 11:11登録)
 一九八七年七月刊行の著者の第一作品集。一九八六年十月から一九八七年五月にかけて、雑誌「中央公論増刊 ミステリー特集」に掲載された中篇ばかりを三本収録。同年四月には自衛隊ハードバイオレンスアクションシリーズ〈五月香(めいか)ロケーション〉の完結編『漂泊戦士(ワンダーエニュオ)』も上梓されている。内容を見るにどうも美少女版ウルフガイのようなものらしい。それに影響されたか、本書で主役を務める"フレイア伝説"学内二位・鷲尾暁穂の設定もかなりはっちゃけている。
 巻頭にある彼女の身上書で目立つところを拾ってみると、習癖:椅子の上にあぐらをかいて、ピアノを弾く。 酒量:バーボンのダブル十杯でも死ななかったという記録あり。ただし、イギリスが嫌いなのでスコッチは飲まず。 さらに愛読書は矢作俊彦と、なかなか凄まじい。まあ大藪春彦や西村寿行に手を出すよりは健全だと思うが。
 なお父親である小説家の昌宏によれば、「"リンゴォ・キッド"や"ピンチヒッター"を初版本で持ってるような女子高生に育てた覚えはない」という。学内では腐れ縁の悪友である"フレイア伝説"学内一位・仙道朋恵と罵倒し合っている事が多いが、根は古風な女。ここまで述べたことからも分かる通り、作者の矢作愛に満ちた中篇集である。
 作中設定によると、彼女等が通うフレイア学園大学附属高校は全校三百人。外人教師も多く博物館や教会もある「山手町(ブラフ)の有名な御令息、御令嬢たちの音大付属」らしい。モデルは横浜の名門校、フェリス女学院。ハマっ子ではないのでこれがどれ程のグレードなのかいまいちピンと来ないが、とにかく卒業生のセーラーが高く売れるような学校だそうだ。
 そんな〈お嬢様〉に深夜の高速で大バトルをさせるのが第二話「郵便カブへ伝言」。女子高生にあるまじき暴走行為の数々に著者のファンは、「ここまでくるとやりすぎ」「いくらなんでもまずいだろ」と困惑したようだが、先に元ネタを読んでると思わず笑みが零れてしまう。タイトルといい内容といい、勿論矢作俊彦の処女長篇『マイク・ハマーへ伝言』のオマージュ作品。暁穂の計画に協力するモヒカン頭の暴走少女・トサカこと藤村操などの脇役も良く、集中では一番の出来である。大沢在昌に加えて森雅裕、この頃のクリエイターに矢作が与えたショックは絶大なようだ。
 他にも第一話「彼女はモデラート」でいきなりポルシェ・タルガが転落するわ、圭一郎やルリ子といった日活俳優名が頻出するわとやり放題。「探偵物語」風の表題作も、全編そこはかとなく矢作イズムに満ちている。勿論キザ丸出しである。
 「モデラート」は妊娠中の級友が車ごと崖からダイブした事件から、学内に巣食う少女売春の元締めを突き止める話。割とオーソドックスで黒幕の正体も分かり易いが、それでも結構凝っている。名門女子校が舞台とは思えないくらいポンポン人死にが出るけど、まあいいか。好みだとこれが二番目。
 「さよなら~」は彼女らの卒業式直後に始まる。級友である混血ドイツ娘の駆け落ちを手伝う暁穂だが、あにはからんや孫娘の留守中に純ドイツ人の祖父は急死。しかも彼は車椅子の身でありながら、生前探偵にある人物の身元調査を依頼しようとしていたらしいのだが・・・
 ミステリ的な部分よりもキャラの方が目立つ作品。とはいえ悪くなく、内容的には最もこの作者らしい。本作で初登場する主人公の母親・ヴァイオリニスト鷲尾幽穂が最後に全部持って行く。流石に年の功だけあって、キザにも年季が入っている。
 以上全三篇で、点数は矢作ファン票をプラスして7点。ただし正味でも準佳作の6.5点くらいは望める内容である。

No.1 6点 kanamori
(2010/03/11 21:04登録)
女子高校生を主人公としたハードボイルド?連作短編集。
初期の作品のせいか文章が生硬で、ウイットに富む会話もあまりなかった。最終話の表題作がまずまずかな。
鮎村尋深シリーズのようなミステリを期待していたが残念。

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