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ミステリの祭典

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完全試合

作家 佐野洋
出版日1961年01月
平均点6.00点
書評数2人

No.2 8点 人並由真
(2020/08/04 17:37登録)
(ネタバレなし)
「ユニヴァーサル・リーグ」(この物語世界の球団リーグの一翼)がその年のペナント・レースを迎えようとしていた、ある秋の日。銀座の大竹デパート内から2歳の幼女・有川珠美が姿を消した。彼女は、ユ・リーグの優勝候補チーム「明星プレヤデス」のエース投手・有川紳の一人娘。そして間もなく、有川家、そして各報道機関に「有川のペナントレースへの登板を禁じる。断れば珠美の無事は保障しない」という意の連絡が届いた。球界、警察、報道機関がこの状況にそれぞれの対応を見せるなか、事件の実態についてさまざまな可能性が取りざたされるが、事態はさらに予想外の展開を見せていく。

 元版のカッパ・ノベルスで読了。一段組で紙幅もそんなに多くないので、これはサラッと読めるだろうと思ったが、いや、トリッキィな誘拐サスペンスミステリとして、予想以上の傑作であった。

 とにかく、あれやこれやと詰め込まれた野球ネタからのミステリ分野への置換が手際よく、現実のプロ野球観戦なんかにまったく興味がない(アニメや漫画での野球ものは大好きだが)自分がこれだけ面白く読めたのだから、昭和の野球ファンにはたまらないのではないか。
 中盤の報道陣の暴走のあたりも、(もちろん現在の目では望ましいことではないが)社会規範の固まる昭和の過渡期の時局なら、こういうことがあったとしてもおかしくないというリアリティを実感する(倫理的な視点の部分は、警察側の憤りの叙述でクリアされていると思うし)。

 野球の試合経過になぞらえた章見出しのお遊びも、その流れに即した終盤の二転三転ぶりもあっぱれ。それとは別に、第10章の3パートあたりの描写なんか、すごく印象深い。

 佐野洋はおそらく大のプロ野球ファンだったのであろうが(すみません。現状でよく再確認してない~汗~)、筆の立つ作家が好きな題材(たぶん)をネタにして、しっかり成功した一作。
 最後の最後の「ああ、佐野サンらしいなあ……」という苦笑いを呼ぶクロージングまで含めて、とても作者の良い持ち味が出た作品ではないかと。
 個人的に、今まで読んだ佐野作品のベストワン。

No.1 4点 江守森江
(2010/03/10 23:36登録)
プロ野球の優勝争いに誘拐を絡め内幕を描いた作品。
些細な事を考えずに読めば非常にスリリングな展開で楽しめる。
でも、本来なら報道協定とかで有り得ない設定な為にリアリティを欠いてしまう。
その辺でミステリーとしては低評価なのだろう。
野球小説分野では高評価なのが皮肉だと言える。

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