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ミステリの祭典

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ヨットクラブ
文庫版の改題『タイムアウト』

作家 デイヴィッド・イーリイ
出版日2003年10月
平均点7.67点
書評数3人

No.3 7点 クリスティ再読
(2024/08/01 18:58登録)
異色作家短編集に第四期があれば、絶対に収録されていた作家といえば、イーリイにとどめを止すのは大方異論のないところだろう。そのくらいに「王道の異色作家」なのだけども、いやそもそも「異色作家」が定義不能なんだから、「王道」とはなんぞや?ということにもなる(苦笑)

実際、作風はかなり多彩。でもそれが既成ジャンルに回収しづらいのが「異色」の「異色」たるあたりかもしれないが、しいていえばSFなのかなあ、と思ったりもするのだよ。確かに「カウントダウン」はロケット打ち上げのまさにカウントダウンを描いてSFチックなんだけども、実のところ身勝手な「完璧な男」をめぐる心理劇のわけだし、「オルガン弾き」なら全自動演奏の新しいオルガンに振り回されるオルガニストの話だから、よくある「魔法使いの弟子」話かと思うと、そういう寓話が狙う教訓とは別なあたりに着地する。「寄宿舎」が「最後の一行」系のよくあるディストピア物なのがどっちか言えば不思議なくらい。

この短編集での白眉は、といえば「ヨットクラブ」と「タイムアウト」だろうな。まあとくに「ヨットクラブ」は、「異色作家」がやってのける「批判を許さない完璧な作品」というべきもの。ダールなら「おとなしい凶器」、エリンなら「特別料理」、マシスンなら「レミング」、ジャクスンなら「くじ」あたりと同等の作品。でも評者はどっちかいえば「タイムアウト」がお気に入り。

「タイムアウト」は偶発核事故でイギリスが消滅し、その責任を感じた米露がもともとのあるがままのイギリスを再建する話。その作業に携わる歴史学者の話だが、「歴史における真実」って何か、を巡ってSF的考察がなされる。これがパラドキシカルだけど、なかなか腑に落ちる深い話。いやさたとえば「徳川家康が実在したことを客観的な証拠を挙げて証明せよ!」と課題が出たとして、これを「どうやるか?」とかテツガク的に考えたら夜眠れなくなるよ(苦笑)。こんなことを連想するような考え落ち系の話なんだが、イーリイの一番得意なのはこの手の「考え落ち」っぽいあたりではないかな。「カウントダウン」「夜の客」「日曜の礼拝が済んでから」あたり、結末をわざと示さないやり方を多用されているしね。

そしてこの「考え落ち」で既成のジャンル感をしっかりと食い破るのが、イーリイの持ち味なんだと思う。

No.2 7点 蟷螂の斧
(2022/12/29 15:12登録)
ダール氏の作品(奇妙な味)はわかりやすいが、本作は?が多かった。
①理想の学校 7点 共同体に適応する規律正しい人間を育てるという寄宿舎制の学校。生徒たちは・・・軍隊式 
②貝殻を集める女 5点 婚約者に主導権を握られた男。反撃手段は・・・母親のモーション 
③ヨットクラブ 9点 人生の成功者だけが集まるというヨットクラブ。そのメンバーや実態は謎であった・・・航海に出てからのお愉しみ 
④慈悲の天使 5点 通勤途中に男は中年の女性に声をかけられる・・・男はみんな同じ 
⑤面接 6点 面接の内容は夫婦生活までおよび・・・非面接者の行動 
⑥カウントダウン 9点 火星ロケットに乗り込んだ船長が科学者Fの妻と不倫していることが発覚。科学者Fは計器に細工を?・・・発射は成功 
⑦タイムアウト 6点 核の誤射でイギリスが一瞬にして消滅。米ソ両国は極秘裏にイギリスの建物、歴史を含めすべてのものを再生しようと・・・嘘の歴史 
⑧隣人たち 7点 引っ越してきた夫婦。赤子がいるようだが誰も見たことがない。人々は窓から覗いたりするようになる・・・善意から悪意
⑨G.O’D.の栄光 4点 自分が神であると信じる男が広告を出すと・・・返信 
⑩大佐の災難 6点 柵が壊れ牛が隣地に入り込んだという。大佐は昔の隣人とのトラブルを話し出す・・・正当防衛 
⑪夜の客 7点 夫婦喧嘩で一言も話さずお互いを無視する。どちらが先に家を出るのか・・・二人そろって 
⑫ペルーのドリー・マディソン 5点 人跡未踏な場所に、すぐ人が集まってしまう。ジャングルの中にパラシュートで落ちてしまった夫人は・・・エリートたちの考えること 
⑬夜の音色 4点 女はフルート吹きのぐうたら男と同棲。そこに黒人シンガーがやってきて・・・ハーモニー 
⑭日曜の礼拝がすんでから 7点 知らない人から声をかけられたら、近くの家へ飛び込むのよ・・・少女は守る 
⑮オルガン弾き 5点 最新鋭の教会。自動演奏のオルガンが導入され・・・狂乱騒動

No.1 9点 mini
(2010/08/05 09:49登録)
異色短篇作家デイヴィッド・イーリイは、”奇妙な味”という表現を言うならR・ダール以上に相応しい作家だ
早川書房の異色作家短篇集全集において、もし第二期が計画刊行されていたとしたら最優先で収録されただろう
私がイーリイを初めて読んだのは代表作と目される有名な短篇「ヨットクラブ」だけれど、当初ハードカバーで刊行された時の短篇集のタイトルも『ヨットクラブ』だった
今では内容はほぼ同じだが『タイムアウト』と短篇集の題名が変更されて河出文庫から出ていて、価格的にも求め易くなった
どうしても「ヨットクラブ」の印象が強くて固定観念を持ってしまうが、短篇集としては結構ヴァラエティに富んでいて、しかも内容レベルも高い
特に得意なのがじわじわとサスペンスを醸成する語り口調で、アイデアやオチの持って行き方も優れてはいるが、やはり基本は途中経過を読ませるタイプだと思う
すらすらと読み易い翻訳文もマルだ

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