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ミステリの祭典

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黒い山
ネロ・ウルフ

作家 レックス・スタウト
出版日2009年09月
平均点6.50点
書評数2人

No.2 7点 クリスティ再読
(2024/06/10 09:37登録)
ウルフ・サーガとしての重要性があるだけでなく、内容的もウルフ物に親しんでいればいるほど面白味を感じるタイプの作品である。
だってさあ、腰の重いウルフがアーチ―をお供に引き連れて、ユーゴスラビアに潜入する!足が痛いとなぞと不平を言いながらも山道を踏破して、反体制組織が潜むアジトの洞窟を訪れ、かつアルバニア国境を越えて監視所のある古城に忍び入る....
この話を聞いたら「ホントにウルフ?」となるのが普通だろうね。キャラぶれてるじゃない....そうなってないのが、著者の凄いあたりだ。
実はこの潜入先はウルフの故郷で、洞窟のアジトやアルバニアの古城も幼少時のウルフが遊びまわった地帯だ。土地勘どころじゃない身に付いた知識がある。そしていつもは「行動=アーチ―、思考=ウルフ」の役割分担になるのが、外国でアーチ―は現地語がまったく理解できない。だからウルフがすべてのガイドを務めることになって、普段の役割分担が逆転する面白さがある。ホントにアーチ―がワトソン役に戻り、アメリカ人のアーチ―視点でのモンテネグロが語られることになる。

さらにこの事件全体の幕開けになったのが、ウルフの親友でご贔屓レストラン「ラスターマン」の名シェフでありオーナーのマルコ・ヴクチッチが待ち伏せにあって射殺されたという事件である。幼少期から共に過ごした親友(兄弟説があるよね)が殺されたという知らせが届き、ウルフが率先して外出してなすべきことを果たす姿を極めて抑制的に描いている筆が素晴らしい。アーチ―視点での外面描写に徹している分、ハードボイルド文らしい良さが際立っている。
続いて、マルコが反チトーの民族主義運動の支援者であるという秘密を、ウルフの養女で「我が屍を乗り越えよ」に登場したカーラに知らさせる。カーラも前作同様に民族運動に関わっているわけだが、本質的にはリバタリアンであるウルフはそういう政治運動には冷淡で、それにカーラは怒り飛び出していく。しかし、カーラがモンテネグロで殺された知らせをウルフは受ける。「犯人は黒い山が見えるところにいる」というマルコ殺しの犯人を示す伝言と共に.....

まさにウルフ・サーガとしてこれほど重要な作品はない。結構後(2009)まで翻訳されなかったのが不思議なくらいのものだ。その後は潜入プロセスのデテールをしっかりと描くわけだが、もちろんチトー政権の秘密警察との騙し合いや、真犯人を見つけてそれをどうアメリカに護送するか?でウルフ物らしい腹の探り合いや策略が見どころになる。ウルフ物って犯人当て興味はいつも比較的薄くて、それ以上に犯人を罠にかけて捕まえるプロセスに面白味があることが多いから、これはこれでウルフ物の本道の「らしさ」にも思っているよ。

なのでいろいろな読みどころのある作品。「我が屍を乗り越えよ」が今一つ平凡な作品だったのとは大きく違う。けど「我が屍~」と比較すると、ウルフ物もやや「サザエさん時空」だよね(苦笑)
(ちなみにマルコの遺言執行人にウルフが指名されていて、「ラスターマン」の経営にウルフが関与し、フリッツが面倒を見る話になったそうだ)

No.1 6点
(2018/08/12 18:28登録)
 ネロ・ウルフの親友にしてレストランのオーナー、マルコ・ヴクチッチが自店前の路上で射殺された。ウルフは身元確認のため遺体安置所に向かうが、その直後に彼の養女であるカルラ・ブリトンが事務所を訪れ、ウルフを糾弾する。マルコと彼女は祖国モンテネグロの独立運動に関わっていたのだ。
 親友の仇を取るためウルフは捜査を進めるが、状況は一向に進展しない。数日後にニューヨークから姿を消すカルラ。そしてウルフの元に、彼女がモンテネグロ山中で殺されたという知らせが齎される。
 ウルフは遂にアメリカを離れ、殺人者を追ってアーチーと共にユーゴスラビアに赴く!
 シリーズ第17長編にして37本目のウルフ物。1954年に発表されました。かいつまんで言うとウルフがユーゴ秘密警察のボスをだまくらかして、親友と養女を殺した犯人をアメリカまで引っ張ってくる話です。色々ガバガバですが。
 旧知の相棒の手引きで、イタリアからアドリア海を横断してモンテネグロに上陸しますが、今回のウルフはアーチーよりよっぽど活動的。山中踏破を物ともしません。一晩寝ると無理が来て「壊疽って知ってるか」とか言い出しますが、音を上げる事だけはしません。とにかく歩きます。現地の描写とか結構面白いです。
 秘密警察の追及を口先三寸でかわしてからマルコの甥の信頼を得るまでは良かったですが、カルラの殺害現場であるアルバニア国境付近の要塞で都合良く犯人が判明するのはちょっといただけませんね。アメリカとモンテネグロに同時に手を伸ばせる相手は限られてますから、ウルフならば遅かれ早かれ突き止めたでしょう。この辺はもう少し工夫が欲しかった所です。

 追記:欧米批評家がスタウトの代表作として選んだネロ・ウルフ物を以下に掲げます。
 参考:http://fuhchin.blog27.fc2.com/blog-entry-88.html?sp

 腰抜け連盟 (1935)  8票
 毒蛇 (1934)  5+(1)票
 料理長が多すぎる (1938)  5+(1)票
 シーザーの埋葬 (1939)  5+(1)票
 ネロ・ウルフ対FBI (1965)  5票
 Xと呼ばれる男 (1948)  4+(1)票  雑誌「EQ」掲載、アーノルド・ゼック三部作
 The Second Confession (1949)  3票  未訳、アーノルド・ゼック三部作
 In The Best Families (1950)  3票  未訳、アーノルド・ゼック三部作
 黒い山 (1954)  2+(1)票
 語らぬ講演者 (1946)  2票  雑誌「別冊宝石」掲載
 編集者を殺せ (1951)  2票
 ネロ・ウルフ最後の事件 (1975)  2票
 ☆()票は同一選者の別選

 以下1票作品
 ラバー・バンド(1936)、赤い箱(1937)、Plot It Yourself(1959)、A Right to Die(1964)、マクベス夫人症の男(1973)
 ギャンビット(1962)、ファーザー・ハント(1968)、(いずれも雑誌「EQ」掲載)
 
 腰抜け連盟強いですね。自分はさほどのものとは思いませんが。
アーノルド・ゼックとはネロ・ウルフ最大の敵で、ホームズ物のモリアーティ教授に相当する人物。「Xと呼ばれる男」以下の作品はゼック三部作と呼ばれています。
 ポケミス版「黒い山」のあとがきでは順次刊行予定でしたがそれから約十年、一向に音沙汰が無いので諦めた方が良いでしょう。

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