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ミステリの祭典

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身代りの樹

作家 ルース・レンデル
出版日1986年04月
平均点7.00点
書評数2人

No.2 6点 HORNET
(2020/05/10 14:22登録)
 処女作が大ベストセラーとなった女流作家ベネットはシングルマザー。だが、最愛の2歳の息子を病気で亡くしてしまった。絶望にくれていた折、精神に病のある彼女の母・モプサは、なんと同じくらいの歳の子を誘拐してきた。始めはモプサの行動に怒り、何とかその子をもとに返さなければと思うベネットだったが、事件が世の中で大きく取り沙汰されている状況に尻込みしているうち、次第に心境が変化してしまう。
 狂った母の所業により子どもを攫った側になってしまったベネット、子供を攫われた側のキャロルと恋人バリー、そして未亡人の財産をかすめ取ることを目論む小心者のテレンス。三者の物語がそれぞれに進行するうち次第に重なり合い、絡み合っていく様相はさすがといったところ。それぞれに描かれる登場人物の心情描写が巧みで、レンデルの魅力が横溢した作品と言える。
 ただ、 婉曲的な描き方の行間を読むようなところが多かったため、理解力の乏しい小生は疑問として残ってしまう部分もあった。例えば、ジェイソンを虐待していたのは結局誰だったのか?キャロルとエドワードを射殺したのは誰?デニス・ゴードン?読みようによっては”ヤツガシラ”とも読めるのだが…。仮にデニスだとして、それはなぜ?
 最後の訳者の言葉では、本作はレンデルの作品の中でも「最後に救いがある」と書いていたが、この結末をそう感じるかどうかも、読者によるような気がする。

No.1 8点 Tetchy
(2009/09/09 00:05登録)
狂える母、モブサを設定した所でこの小説は勝ったも同然である。この母の存在があったからこそ、到底起こりえない出来事がごく自然に流れとして滑り込んでくる。
そこから揺れ動く人々の心模様。
そしてテレンス・ウォンドという小技が実に最後の最後で、絶妙な形で効いてくる。心情的にはこの小心者に勝利の美酒を与えたかったのだが。
しかし珍しく実に爽やかな読後感だった。

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