アウト・オブ・サイト |
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作家 | エルモア・レナード |
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出版日 | 2002年10月 |
平均点 | 7.50点 |
書評数 | 2人 |
No.2 | 7点 | 人並由真 | |
(2023/07/08 17:00登録) (ネタバレなし) 1990年代後半のマイアミ。州刑務所で懲役30年の実刑に服していたプロの銀行強盗で47歳のジャック・フォーリーは、囚人仲間ホセ・チリノ(チノ)の脱獄計画を看守のバップに密告。そのチノの脱獄自体を陽動にして、自分自身が脱獄する。フォーリーは塀の外の犯罪者仲間バディ・ブラッグと、そのバディが呼んだ協力者グレン・マイケルズの支援を得て、脱獄に成功するが、たまたま刑務所の周囲に居合わせた29歳の美人の連邦執行官キャレン・シスコ―に遭遇。やむなく彼女を車のトランクに載せて、逃亡した。妙な流れから、互いに好きな映画や俳優が一致するとわかり、おかしな親近感を抱くフォーリーとキャレン。だが逃亡中にキャレンは隙を見て脱出し、フォーリーは脱獄犯として警察に追われることになるが、妙な出会いをした男女の間には犯罪者と司法関係者という立場とは別の妙な感情が育ち始めていた。 1996年のアメリカ作品。たまにはレナードでも、と思って、未読の本の山(というか山脈)の中から手に取った一冊。 サクサク話が進み(ベテラン訳者・高見浩の筆のノリもいいのだが)、主人公コンビの男女の関係性はオトナ向けの渋い(?)ラブコメみたいで、その辺も良い。 劇中で話題になる映画にレッドフォード主演の『コンドル』が登場し、グレイディの原作『コンドルの六日間』にまで話が及ぶのも、同書をむかし読んでいる評者などにはちょっとウレシイ。 かたや、囚人仲間で主人公にも便宜を図ってくれていたチノをフォーリーが利用する辺りは、それってどうなの? と思わないでもないが、まあその辺はギリギリの部分では弱肉強食、裏切りも駆け引きもある悪党仲間の世界での不文律、ということであろう。少なくとも叙述はドライな一方で、フォーリーの方も最低限、引け目を感じる描写もあるので、読者的にはなんとなく丸め込まれてしまう。 メインキャラクターの周囲に絶妙にクセのあるサブキャラを配置し、群像劇を盛り立てていく作者の手際は今回も鮮やか。フォーリーの友人で副主人公格のバディは、やがてグレンの仲間で中堅プロ犯罪者の「スヌーピー」ことモーリス・ミラーと関わり合うことになる。そしてそのモーリスの妻がバディに向かい、「もうあんたもモーリスの仲間だよ(あたしたちといっしょに地獄の道連れだよ)」とそっと囁くあたりの、不気味にゾクゾクさせられるテンションとか、たまらない。 終盤はかなりコンデンスな展開で、嵐の瞬間突風のような感じだが、これはこれで妙な余韻を感じさせたりする。クライムノワールものの、佳作~秀作。 |
No.1 | 8点 | Tetchy | |
(2009/08/06 19:52登録) とにかく登場人物が洒落ている。 活きている。 どんどん引きずり込まれる。 フォーリーのクールさは映画版のジョージ・クルーニーぴったりだし、キャレンの凛々しさは確かにジェニファー・ロペスだなぁ。本作ではフォーリーは50前、キャレンはどうやら白人という設定みたいだがこのキャスティングは素晴らしいと改めて思った次第。 車のトランクの中に銀行強盗と女連邦官が一緒に閉じ込められるというワン・アイデアがこれほど面白く働くとは思わなかった。水と油の職業の者同士が恋に落ちるというパターンは山ほどあるが、これほど奇抜でしかも説得力のあるシチュエーションは初めて。 ここから織りなされるそれぞれの思いの道行きが大人のムードを醸し出しながらも初々しさを持ち、そして再び出会った時に爆発的な化学反応を起こす、このストーリー・テリングはやはり超一流。 ただ2人の恋の盛り上がり方に比べ、結末がドライで呆気なく幕引きになるのが残念。 |