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ミステリの祭典

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「禍いの荷を負う男」亭の殺人
リチャード・ジュリーシリーズ

作家 マーサ・グライムズ
出版日1985年03月
平均点5.00点
書評数3人

No.3 4点 Akeru
(2017/07/20 18:30登録)
マーサ・グライムズのジュリー警視シリーズの第1作です。
以下、この第1作目に限らず、シリーズ全体を通したレビューをこちらに書かせていただきます。

まず第一に本作は狭義の推理小説ではありません。
作品が進むにつれて、捜査が展開され、新しい証拠が発掘されるにつれ、犯人がわかっていく。という、ほぼ推理の余地がないタイプの小説となっております。 物語の最後の方に出てくる証拠が重要ですからね。
また、とかく読みにくいことが特徴です。 翻訳者は(何故か巻によって翻訳者がバラバラです、三人ほどいます)マーサ・グライムズは詩的であると何度も称揚するのですが、残念ながら翻訳越しにはその良さは伝わりません。
例を挙げると、

・田中家(仮)に行き、そこの家族(父母三人姉妹)と会話するパートで、突然地の文に「~と田中は言った」と書かれる。
当然ですが誰が言ったのか判別のつきようがない。みんな田中だし。
推測ですが、
1.原文ではそのように書いてる
2.品詞で(hisとか)で性別がわかる
のではないかと思われるのですが、日本語に品詞概念がないため判別不能です。そして問題は判別不能のまま訳してあるという点です。

・一度しか出ない単なる町人が非常に多い。
主人公は刑事なので、色んな人に聞き込みに行きます。 そして例えば安田さんに話を聞いたとします。 そのあと、30ページほどたったあとに、「安田が言うところには」とか文中にポンっと出されるわけです。 登場人物で既に10人近い人物が毎回登場するのに一度しか名前の出なかった人間がどこの誰でどんなことを言ってたかなんて覚えきれません。 当然、人物紹介にも名前はありません。

・名前はが不親切
プラント(主人公)、プラック(巡査)、プラット(プラック巡査の上司の警視)
あのねえ、記憶テストかなんかじゃないんだからごちゃごちゃになりますよこんなん。 この手のことが多いです。

他にも形容詞がよくわからない表現だらけ(訳者はここを評して詩的だといいます)とか口調の不統一とか色々列挙出来ますが、とかく読みにくい。
読んでるうちに自分がチンパンジー級の馬鹿なんじゃないかと思えてきます。
言い訳めいてますが、こちらの知能の問題ではなく、そう思い込むようにデザインされた小説だと神かけて断言できます。

じゃあ、私が何故この小説、シリーズを読み続けてるか。
キャラクター造形が良いからで、なんとなく全員に親しみというか、愛着が持てるように設計されてるからでしょう。
爵位を返上して貴族をやめて好き好んで殺人事件に首を突っ込むプラント
沈着冷静で親切だが言葉少ないジュリー警視
常に喉を悪くしていつも病気に怯えてマフラーと喉飴と医薬品を手放せないウィキンズ刑事部長
彼らの人間関係や恋愛とかが気になってしょうがないだけです。 ホントに、それだけで推理小説を読み続けられる自分にむしろ驚きます。

というわけで、正直、推理小説としてはお勧めしません。 基本的にシリーズを通してトリックも手垢のついたものばかり(広義の人間関係トリックが多め)です。 一言で言えばクリスティクローンです。
未読の方にはいっそクリスティのほうをお勧めします。 クリスティを全部読み通した人っていないでしょうし。

まあ、それでも私はこのシリーズを読み続けるんですが。
喩えるなら、ポアロとヘイスティングスが喋ってるのが好きで、謎とか殺人とかホントどうでもいい、とかそういう人向けです。
読み物としては悪くないんですが、ミステリとしては正直、だいぶ下がります。

No.2 6点 kanamori
(2015/01/06 18:36登録)
クリスマスを数日後に控えたイングランド中部の小村で、宿泊客が連続して猟奇的状況で死体となって発見される。一人目はビヤ樽に首を突っ込んで、二人目はパブの人形の看板の代わりにさらしものにされて。ロンドン警視庁から派遣されたジュリー警部の捜査に加え、地元に住む元貴族のメルローズとアガサ叔母が素人探偵を買って出るが---------。

各タイトルに珍妙なパブの名前を冠した、リチャード・ジュリー警部(のちに警視)シリーズの第1作。
新装版の解説で杉江松恋氏が書いているように、本書はセント・メアリ・ミード村を舞台に、貴族探偵ピーター・ウィムジー卿を登場させたような図式と言えなくもなく、クリスティとセイヤーズの”いいとこ取り”のような味わいのあるヴィレッジ・ミステリに仕上がっています。シリーズの特徴としては、個性的な村の住民たちの造形描写が秀でていて、なかでも穿鑿好きで俗物的なアガサ叔母のキャラクターがなかなか強烈です。”元祖コージー・ミステリ”という裏表紙の呼称には素直に肯けませんが、本書に関しては彼女の”活躍”でコージー色が濃くなっていますね。
謎解き部分では、定番の”過去の秘密を抱える人物”を過剰に用意したため、徒に捜査を錯綜させすぎているのと、ダイイング・メッセージが日本の読者にはピンとこないという難点がありますが、2作目以降に非常に期待が持てる出来栄えです。

No.1 5点 nukkam
(2009/06/11 15:43登録)
(ネタバレなしです) 米国の女性作家マーサ・グライムズ(1931年生まれ)が1981年発表の本書でスタートしたリチャード・ジュリーシリーズは、(特に初期作品は)予備知識なしで読めば英国の作家の作品かと思うほど伝統的スタイルで書かれた本格派推理小説です。このシリーズ、英国地理に関する初歩的なミスやアメリカ英語の使用が散見されて英国ではあまりいい評判を聞かないそうですが米国ではベストセラーを記録するほどの人気です。デビュー作ということもあってかかなりの力作だと思いますが詰め込みすぎてごちゃごちゃしている感もあります。文章自体はうまく、人物描写や風景描写に冴えを見せています。

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