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ミステリの祭典

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雪だるまの殺人
ナイジェル・ストレンジウェイズ シリーズ

作家 ニコラス・ブレイク
出版日1961年01月
平均点4.50点
書評数2人

No.2 7点 人並由真
(2020/09/19 17:16登録)
(ネタバレなし)
 世界大戦の影響が強くなる1940年の英国。名探偵としてすでに高名なナイジェル・ストレンジウェイズとその妻ジョージアは、ジョージアの従姉妹の老嬢で歴史学者クラリッサ・カベンディッシュから相談を受ける。その内容は、クラリッサと親交の深い一家、退役軍人ヒヤワド・レストリックを当主とする「イースタハム荘園」で、飼い猫が奇矯な行動をとるなど不穏な気配があるというものだ。早速、幽霊の伝説も残るくだんの荘園に乗り込むストレンジウェイズ夫妻とクラリッサだが、訪問して宿泊したその夜のうちに家人の一人が変死。しかも自殺のように見えたその死体には、他殺の疑惑が浮上する。

 1941年の英国作品。番外編をふくめて、ナイジェル・ストレンジウェイズものの第七長編で、ナイジェルの最初のヒロイン、ジョージアの最後の活躍編(涙)。

 物語の冒頭、雪だるまの中から(誰かとはわからない)死体が見えかけるところで第一章が終了。第二章の冒頭からは、クラリッサの依頼でナイジェルとジョージアが動き出す物語の流れが語られ、これが本編の90%前後を占めたのち、最後の最後で第一章に戻る。そこではじめて、結局、誰が殺されて雪だるまの中に押し込められていたのか、そして事件全体の真相までが明かされるという、なかなか凝った構造。
 当然、雪だるまの中の死体の該当人物としての可能性があるものは物語の進展に応じて絞られてもくるが、ある意味で「被害者は誰か?」的な側面もある作品で、そういう興趣も加算してかなり面白かった。
 
 nukkamさんがお怒りになる<「前半で死体が全裸だった事実」が謎解きの要素としてまったく無意味>だというご指摘には返す言葉もないけれど(汗)、その辺はもしかしたら作者ブレイクの単純な軽い猥褻描写だったのかも? 生涯の著作を読み進めるとわかるけれど、このヒト、けっこうエッチだったから(笑)。
 
 冒頭のインパクトで全体の緊張感を堅守しながら、物語の実質的な流れは、幽霊伝説の怪談もちょっとからむ館もの(カントリー・ハウスもの、というべきか)として展開。主要キャラも全体にくっきり書き分けられていて、まったく退屈しなかった。
 あと、被害者の陰影のある過去像が次第に浮かび上がってくる流れは、ほぼ10年後のガーヴの『ヒルダ』に影響を与えているかもしれない? 
 戦時下の地方の灯火管制の描写や、ナチスの台頭の話題など、この作品が生まれたリアルタイムの時代色も味わい深いし。

 最後の意外性……という点ではそんなでもないけれど、普通に書いたら佳作程度で終わるところを、ちょっとトリッキィな仕掛けをいくつか設けて秀作に格上げした感じ。
 ナイジェルシリーズのなかでは、個人的には上位の方に推したい。

 最後に、最後までおしどり夫婦探偵のベストパートナーだったジョージアに花束を。
 自分が翻訳ミステリファンである限り、あなたのことはずっと忘れません。

追記:翻訳が、あの斎藤数衛。このヒト、1980年代のHM文庫の新設時代にカーの旧訳を訳し直したこと、さらにはあの個性的な箇条書き風の訳者あとがきで印象深いけれど、もうこんなころからミステリを訳してたんだね。ちょっとビックリした。
 翻訳は全体的に平明だったけれど(一部のカタカナ言葉に時代的な違和感はあったが)、ナイジェルがジョージアを「あんた」と呼ぶのだけは閉口でした。普通に「きみ」じゃいかんのか?

No.1 2点 nukkam
(2009/03/26 18:27登録)
(ネタバレなしです) 1941年発表のナイジェル・ストレンジウェイズ第7作の本格派推理小説です。雪だるまの中から死体登場、という出だしはなかなかのインパクトがありますが結局のところ、メインの謎解きは首吊り事件の方だったのは拍子抜けでした。自殺か他殺かを推理するのはいいのですけれど、死体が全裸であったことに名探偵役のナイジェルを筆頭に誰も疑問を表明しないのはなぜ?あまりにも不自然だとは思わなかったのでしょうか?不信感を持ちながら読んでしまったので私個人にとって最も不満の多いブレイク作品となってしまいました。猫の不思議な行動の謎解きなんかは結構読ませますけど。

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