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ミステリの祭典

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トライ・ザ・ガール
早川版チャンドラー短編全集2

作家 レイモンド・チャンドラー
出版日2007年10月
平均点8.00点
書評数2人

No.2 8点 斎藤警部
(2021/01/26 16:40登録)
シラノの拳銃..夥しい登場人物と高速展開に翻弄された末、血流が戻ったようにじんわり来るエンディング。。 
犬が好きだった男..引き摺り込む導入部と、やはりピカ一の終結部。 
ヌーン街で拾ったもの..またしても最高の上に最高過ぎるエンディング。リドルのふりなんかしやがって。。 
金魚..腐れ縁的友情の相手がノンケ同士の異性というのがいい。推理クイズもどきの小さなトリックも味がある。 
カーテン..この真犯人、真相意外性をミステリとして成立させるだけのために、本格とは違うハードボイルドなるジャンルを発明したとしても悔いは無かった事だろう。 
トライ・ザ・ガール..ストーリーの中で最も沁みるエンディング〜ラストシーンに尺たっぷり取ってくれてるのがありがたい。 
翡翠..コミカルなドタバタ劇、ワイズクラックも心なしか喜劇的。お決まりとは言え噛み応えある真相を道連れにラブコメ調エンドへ。。

どれもこれもじんわり沁みる愛おしい作品たち。後の長篇に一部再構築して組み込まれたのも数篇あり、どこかで見たようなシーン、聞いたようなストーリーに時々遭遇するのが面白いが、どれも長篇とは違う独立した中短篇として、じゅうぶん愉しめましょう。

No.1 8点 Tetchy
(2009/03/10 23:09登録)
創元推理文庫版の短編集に未収録の作品は本書では「シラノの拳銃」と「翡翠」。
本作では「シラノの拳銃」、「犬が好きだった男」、「トライ・ザ・ガール」そして「金魚」の4編が秀逸。
1つに絞るならばやはり「トライ・ザ・ガール」か。

「シラノの拳銃」は何と云っても最後のシーンが忘れがたい。ナイトクラブの女ジーンが笑みを浮かべながら眠りに就くシーンにしみじみと心打たれた。

「犬が好きだった男」は死屍が累々と残されていき、激しい銃撃戦が二度も出てくるハードな内容だ。しかもカーマディが麻薬を打たれて病院に監禁されてしまうシーンは確か長編でもあったように記憶しているがどの作品だったのか思い出せない。ロスマクのアーチャー物でも同様のシーンがあったように思うのだが。

「トライ・ザ・ガール」はこれこそ正に名作『さらば愛しき女よ』の原形。
そしてこの話の裏テーマというのは8年ぶりに出所した男が直面した、馴染みの店と好きだった街の雰囲気、そしてかつて愛した女、それら全てが変ってしまったことに対する戸惑いと哀しみなのだ。彼は居心地の悪さと居場所の無さを感じていたに違いない。そしてそうした彼の唯一の拠り所がかつて愛した女ビューラだったのだ。あまりに切ない物語。

「金魚」は我らがヒーロー、マーロウ登場の物語。レアンダー真珠を巡る丁々発止のやり取り。ハメットの『マルタの鷹』を換骨奪胎したかのような物語。とにかく悪役の女性キャロルがいい!ストーリーの運びは定型なんだが、彼女の存在が物語に色彩を与えている。最後のサイプの妻がマーロウに仕掛けるフェイクなど、最後まで楽しめる作品。最後のシーンでビリー・ジョエルの”Honesty”の歌詞が浮かんだ。
“誠実、なんて寂しい言葉だろう”

この頃のチャンドラーは実に筆が冴えている。どれもこれが逸品だ。

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