濃紺のさよなら トラヴィス・マッギー |
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作家 | ジョン・D・マクドナルド |
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出版日 | 1967年01月 |
平均点 | 6.00点 |
書評数 | 3人 |
No.3 | 7点 | 人並由真 | |
(2020/05/05 23:50登録) (ネタバレなし) 評者にとって本当に久々のマッギーもの……というか、マトモに読んだこのシリーズは、かなり昔に手に取った『レモン色の戦慄』だけであった(汗)。 そっちはマッギーと悪役キャラの距離感とか、なかなか面白かった印象だけはある。 というわけで、どうせなら積ん読の蔵書の山の中にあるシリーズの第一作から改めて読もうと思って手に取った、本書です。 はたして期待通り&予想以上に楽しめた。 トラヴがスネに傷を持つ依頼人側の立場に忖度しつつ、ヤバイ性根の悪党に奪われた、とあるお宝を取り返すという筋立てそのものはシンプル。 だけど、場面場面の叙述、小説的な細部は実に読ませる。登場人物とマッギーの関係性も、そのひとつひとつが丁寧に語られる。 特に情報を求めて乗り込んでいった実業家ジョージ・プレルの家庭内の事情にマッギーが絶妙な歩幅で関わり合い、秘密を探るためならヤバイことも辞さない一方、最後は呆然とするほど、向こうの家庭の今後まで思いやりながらうまくまとめて去って行く、そんなストーリーの組み立てぶりなど、感嘆のため息が出た。 マッギーは必要とあれば、軽い傷害程度の荒事もよしとするアウトローなんだけど、かたや、事件のなかで関わった不遇な人間をとりあえずその場のみ助けて、わずかなアフターケアを授けて、しかし結局は放り出すことに本気で罪悪感を抱いたりする。情とモラルのゲージがかなり高めで、結晶度の高い時のフランシスの作品の主人公のようであった。 (その一方で、貧乏でもマジメに誠実に生活して仕事していれば、いつか神様が幸福を授けてくれるだろうと考えてるプチブル層にはかなり冷笑的で辛辣である。この辺は1960年代半ばの、改めて当時の階級差を意識しはじめたアメリカ社会の時代性の反映か?) さらに気が付いたら、自分ってまだジョン・Dのノンシリーズ長編の方も、まだ一冊もマトモに読んでなかったのよね(汗)。いや、職人的な実力派作家なんだろうということはおおむね予見してはいたんだけれど、そこから実作を嗜むという実働に至らず、なぜか止まってしまっていて。 このシリーズもおいおい少しずつでも読んでいきたい。 |
No.2 | 6点 | tider-tiger | |
(2017/05/02 08:25登録) チューキーに紹介されたその女はひどく傷ついていた。女の名前はキャシィ。父親が第二次大戦中に不正な蓄財をしていたらしいのだが、詳細は不明。父は除隊後に人を殺して服役、獄死してしまった。そんなおりに近づいてきたアレンという男にキャシィは篭絡され、父のお宝も奪われてしまった。そいつを取り返して欲しいというのだが……。 ヨットを棲み処としているトラヴィス・マッギー氏(40)は無職のような暮らしぶりだが実は有職者である(なにせカラーシリーズですから)。トラヴは取り返し屋を生業としている。すってんてんになるまでは仕事をしない主義だが、今回は友人の頼みとあってキャシィのために重い腰を上げる。 取り返し屋トラヴィス・マッギーシリーズ、カラーシリーズの第一作。 ※水上生活者というのはかつては日本にも大勢いて、社会問題にもなっていたようですが、トラヴィス・マッギーの生活はそういうのとは異なります。 どうしてこんな男に引っかかるのだ? 太古から現代まで変わらぬ普遍的な問題に精神医学の面からも触れている。それが教科書的にならず、自然に物語の中に組み込まれている。 そういう男に引っかかった女をバカだねと突き放さずに包み込むトラヴ。そして、事件を通じて彼自身も心に傷を負う。その心の痛みが読み手にダイレクトに伝わってくる。格闘シーンもいいし、細部にリアリティもある。 文章もいい。肩肘張らず、わかりやすいが陳腐でもない。 ~わたしはテラスへ出て、自分で弱い飲み物を一杯つくった。ジェリーとジョージが怒鳴りあっているのが聞こえた。節は聞こえるが、歌詞までは聞きとれないといったところだ。~ 反面、各場面はとても面白くてリーダビリティも高いのだが、プロットは非常に単純。優れたストーリーテラーだという人もあるようだが、本作にはそういう印象はない。これはトラヴィス・マッギーに自己を投影して楽しむキャラ小説、ヒーロー小説ではないかと。 本作は先に書評した初期短編集よりも下手くそに見える。 例えば、三人の男が船で北海道に行く話を書くとする。書くことはいくらでもある。その中でなにを削ってなにを書くか、それらをどのような順序で語っていくか、それぞれをどのような比重で語るのか。 初期短編集や初期の長編に見られたバランス感覚が本シリーズにはない。大袈裟に言えばペラペラのトタン屋根を江戸城の大黒柱で支えるような構造。過剰なトラヴィス・マッギーの語りが面白くもあり、また、小説のバランスを著しく崩してもいる。 真面目で基本性能が物凄く高い作家だと思うのだが、本シリーズはどこか調子が狂っている。 アメリカ人の生活が描かれ、アメリカ人の理想が色濃く反映され、アメリカの男かくあるべしと。自由と正義の国アメリカ。ヒーローの国アメリカ。これがアメリカ人の心を鷲掴みにしたのではないかと、アメリカ人のための小説、そんな風に感じる。マッギーシリーズが日米で人気に大きな解離があるのはこのへんに原因があるのではなかろうか。 この人は一人称よりも三人称の方が力を発揮できる作家ではないかと思っている。 そして、力を発揮しない方が人気が出る、偏りがある方が人気が出る、そういうことも往々にしてあるのが小説だと思う。 |
No.1 | 5点 | mini | |
(2010/04/09 09:46登録) ロス・マクドナルドとフィリップ・マクドナルド以外にもう1人、第3のマクドナルドが居る、ジョン・D・マクドナルドだ 読んだかどうかは問わないが、ロスマクとP・マク以外にジョン・D・マクドナルドという作家が存在することは、名前だけでも知っていなければミステリーファンとは言えない なぜならJ・D・マクドナルドは決してマイナー作家ではないからだ そりゃメジャー級には一歩足りないかもしれないが、作品数の多さといい大衆的人気のあった準メジャークラスなのである J・D・マクドナルドの作家活動は前期と後期で全く異なる 前期では非シリーズのクライムノベルが中心であり、同一主人公を複数の作品で全く使っていない ところがトラヴィス・マッギーが初登場するこの作品で大当たりを取ると、以降は一部例外を除いて極端なくらいトラヴィス・マッギーシリーズしか書いていない 作者を代表するシリーズのトラヴィス・マッギーだが、ヨット上で暮らす高等遊民みたいな奴で、依頼が有ったら仕事をする揉め事処理屋といった風情である あくまでも私立探偵とかじゃなくて揉め事処理屋だから、ハードボイルドではなくて犯罪小説に近い もう一つの特徴は題名に色の名前が必ず入っていることで、その色も中間色の微妙な色も採用しているのでヴァリエーションは豊富だ 未読だがもっと古くにフランシス・クレインという作家が色付題名をシリーズ化した前例はあるが、今ではこの題名手法と言えばジョン・D・マクドナルドという認識が一般的だろう |