(2021/02/12 20:42登録)
(ネタバレなしです) 「天狼星Ⅱ」(1987年)から長い空白を経て1993年に発表された「天狼星」三部作の最終作となるスリラー小説です。「天狼星Ⅱ」が色々な意味で未解決要素を残していたので本書を待ってましたと期待した読者もいるかもしれませんが、読み始めると「あれれ」と感じたのではないでしょうか。シリーズ探偵の伊集院大介やシリウスを含む「天狼星Ⅱ」の登場人物がまるで登場せず、竜崎昌という少年の視点で彼と彼を取り巻く環境が地味に語られるのです。少しずつ悪の存在がほのめかされるとはいえミステリーらしささえ希薄な前半です。一人称形式のためか竜崎昌の外見については描かれていませんが、やがて彼が美少年であることが説明されるとこれまでの「天狼星」シリーズを読んだ読者は「ははん」と予想がつくかもしれませんね。はい、この作者独特の耽美趣味が炸裂します(そして個人的には好みではありませんでした)。「天狼星Ⅱ」の後日談もやっと語られるのですが、あれだけ盛り上げておいて本書でのあっさり説明に終わってしまう演出はもう少し何とかならなかったのでしょうか。まあ終盤の劇的な展開はすさまじいほど力が入っていてここはなかなかよくできています。なお本書の講談社文庫版の巻末解説では三部作のどれから読んでも大丈夫のように紹介してますが、確かに本書は前作の後日談としては構成に難ありとは思いますけど作中で「天狼星」(1986年)や「天狼星Ⅱ」のネタバレをやっていますし、やはり最後に読むべきだと思います。「天狼星」シリーズもこれで終了、伊集院大介シリーズの次作は傑作と評価の高い「仮面舞踏会」(1995年)で、私の好きな本格派推理小説の世界に戻ったのでほっとしました。と思いきや作者は「天狼星」にまだまだ思い入れがあったのでしょう、後年に新たな「天狼星」シリーズが発表されるのです。
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