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ミステリの祭典

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クロノス計画
名無しの秘密工作員

作家 ウィリアム・L・デアンドリア
出版日1986年06月
平均点6.00点
書評数2人

No.2 6点 人並由真
(2020/04/06 03:52登録)
(ネタバレなし)
 1980年代前半。ペンシルヴァニア州の田舎町ドレイヴァー。そこで、エレクトロニクス企業の社主ハーバート・フェインの一人娘で22歳のエリザベス(リズ)が誘拐される事件が起きる。誘拐したのは、ソ連の息がかかったベテランのテロリスト、レオ・カルヴィンの一味。フェインは国防省からの依頼で高精度の新型ミサイル誘導装置「メンター」を開発中だった。誘拐犯一派がリズを人質に、この軍事計画に圧力を掛けてくると予見した国防省の「下院議員」は、現在は「クリフォード・ドリスコル」と名乗っている有能な青年エージェントを動員して対策を図るが、実はそのドリスコルと「下院議員」の間には劇的な関係があった。複雑な思いを抱きながらも対抗作戦の指揮をとるドリスコルは、とある奇策を実行。一方でテロリスト側やFBI、そして州警察や土地の報道陣もそれぞれの動きを見せるが、さらにこの事態の陰では、ソ連の長年におよぶ謎の謀略「クロノス計画」が進行していた。

 1984年のアメリカ作品。エスピオナージュの大枠で描かれた誘拐ものなのだが、デアンドリアのことだから何らかのトリッキィさや技巧的なギミックが用意されているだろう? と予期しながら読む。少なくとも、謎の「クロノス計画」の真相は終盤まで伏せられた、ホワットダニット作品であろうし、と期待した。

 そうしたら誘拐された令嬢リズの凌辱シーンなど、思いもかけない描写がとびだしてきてアワワ。同時代の日本作家ジュコー・ニシムラの作風が、デアンドリアの著作に影響を与えたか? と読みながら思ってしまった(いや、たぶん違う)。
 ストーリーがテンポ良く進むのはいいんだけれど、ドリスコルの企てた対テロリスト用のカウンター策……ここでは詳しくは書かないけれど、確かに奇策といえば奇策でお話的にはオモシロイものの、作中のリアルとしてこんな作戦が成立するの? と疑問。もし自分がテロリストのカルヴィンだったら、いくつかのさらなる再カウンター策を、そんなに苦労せずに思いつくような……?

 さらに終盤に明かされる「クロノス計画」の真相は確かに意外性はあったけど、どっちかというとそれもその作戦そのものの衝撃度というより、脇の方の意外さでした。これも詳しくは言えませんが。そんでまた、そのクロノス計画そのものについても、さらにアメリカ側もその計画を無効化する、もしくは弱体化させる方策はいくつか打ち出せそうな気もする。

 なんか謎解きエスピオナージュ版のバカミスといえる雰囲気もある作品だったな。まあ前半で感じたある種の感慨が、最後まで読むとああ、そういう狙いだったんだな、と合点がいく作りとかは、いかにもデアンドリアらしい気もしたけれど。

No.1 6点
(2016/02/15 23:08登録)
デアンドリアの作品を読むのは今回が3冊目ですが、それぞれ違ったタイプの作品です。
マット・コブ・シリーズも軽い印象はありましたが、本作はB級っぽい匂いが最初から漂う荒唐無稽なスパイ・スリラーで、冒頭に置かれた、現実には存在しない云々の文章には苦笑してしまうような事件です。ただし舞台はほとんど架空の都市だけに限定されています。まあシリアス・スパイだったらアンブラーの『あるスパイへの墓碑銘』なんて、ほとんど館ものみたいなのもありましたが。1984年の作で、ソ連の「クロノス計画」(の一部)を実行しようとするテロリストのグループと、その計画を阻止しようとするアメリカ政府の秘密情報機関エイジェント側、両方の視点から描かれていきます。
ただし、作者が基本的に謎解き要素を重んじる作家であることも間違いなく、結末の意外性はなかなかのものです。「クロノス計画」の必要性には大いに疑問を感じましたが。

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