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ミステリの祭典

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デッド・ゾーン

作家 スティーヴン・キング
出版日1987年05月
平均点8.00点
書評数2人

No.2 8点 Tetchy
(2017/05/01 23:05登録)
哀しき超能力者の物語。
本書は『シャイニング』を皮切りに特別な能力を持つ特定の人を扱った、つまりシャイン―かがやき―と称される能力を持つ者たちの系譜に連なる作品でもある。
主人公ジョン・スミスは脳の一部を損傷するほどの交通事故に遭い、約5年に亘る昏睡状態から目覚めてから能力が発動する。
彼はその能力ゆえに人から畏怖され、時には、いや往々にして関わりを持ちたくないと嫌悪の対象になる。

触れられるだけで自分の内面を丸裸にされるような思いがさせられ、周囲はジョンがサイコメトリーを発揮した後ではよそよそしい態度を取るようになる。また新聞記者はジョンの能力に興味深々であるものの、触れないでくれとはっきりと告げる。
更に連続殺人事件の犯人逮捕の援助を頼んだ保安官はジョンが発見した真相に嫌悪感を示し、その真実を認めようとせずに罵倒する。
卒業パーティーの会場が落雷によって大火事に見舞われることを予見し、パーティーの取り止めを促すが、人々はせっかくの晴れの席を台無しにされたと怒り、彼を非難する。そして実際に火事が起こるや否や、人々はジョンの能力に感謝するどころか畏怖し、あまつさえ実はジョンが超能力で着火したのではないかとまで云う―ここで「小説の『キャリー』みたいに」と自作を宣伝するのが面白い―。

人に触れることでその人に関する未来や過去をヴィジョンとして捉える能力はしかし本書でも述べられているように、現実世界では人間はことが事実になるまでは本当に信じる気になれないのが世の常であり、人々はことが起きた後でその正しさを心に刻み込む。従って未来を正確に予見できるジョンは常に異端者であり、場合によっては忌み嫌われる存在になるということだ。『ザ・スタンド』の舞台となった人類のほとんどが死に絶え、明日が見えない世界においてはこの能力を持つ者は導き手として崇められるが、では現実世界ではどうかというと逆に恐怖の存在となる。
苦悩する理解されない救世主の姿が本書では描かれているところに大きな特徴があると云えるだろう。

ただ唯一の救いは作者は決してジョン・スミスをただの狂えるテロリストとして片付けなかったことだ。あくまで孤独な、報われない世界の救世主として描かれる。世界を救おうとして殉じた男は最後の最後までたった一人、同じ高校教師の同僚だったセーラを愛していた愚直な青年だったことも胸に打つ。結婚後にセーラが自宅を訪れ、共に愛を交わし合った一度限りの夜はジョンには何ものにも代え難い思い出であったことだろう。

さて2016年アメリカは第45代大統領にドナルド・トランプ氏を選出し、そして2017年就任した。この実業家上がりの大統領が本書で後にアメリカ大統領となり、全面核戦争の道へアメリカを導くと恐れられたグレグ・スティルマンと重なって仕方がなかった。
現実問題としてトランプ大統領は北朝鮮に対して核戦争も辞さぬ挑戦的な態度を取り続けている。本書はもしかしたら今だからこそ読まれるべき作品かもしれない。彼らが選んだ大統領はスティルマンのように一種狂宴めいた騒ぎの中で選んだ過ちではなかったのか。1979年に書かれた本書は現代のまだ見ぬ過ちを予見した書になる可能性を秘めている。実は本書のタイトル“デッド・ゾーン(死の領域)”はスティルマン選出後のアメリカをも示唆しているのであれば、まさにそれは今こそ訪れるのかもしれないと背筋に寒気を覚えるのである。

No.1 8点 ∠渉
(2014/04/07 20:36登録)
良いプロットにおもくそエグいのぶち込むキングが好きです。真骨頂が出てます。
交通事故に遭い4年半の昏睡状態に陥ったジョン・スミスは意識を取り戻し奇跡の回復を遂げるも、事故後に身に付いた予知能力によって、人生の歯車が狂いだす・・・。
予知能力のせいだけではないし、色々な要素が、そして人が交錯してジョンの人生が動いていくのですが、あまりの迫真さにフィクションだって感じがしなかったし、この不条理さがキングだなぁ、と改めて感じました。そしてロマンチストです。

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