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ミステリの祭典

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八点鐘が鳴る時

作家 アリステア・マクリーン
出版日1968年01月
平均点5.50点
書評数2人

No.2 8点 人並由真
(2023/07/20 20:47登録)
(ネタバレなし)
 1960年代半ば(たぶん)のアイルランド諸島。海洋学者ピーターセンの偽名で現地に来ている「おれ」こと38歳のフィリップ・カルバートは、親しい二人の「仲間」を失い、自分自身も命の危機に晒された。自分の直属のボスでクセの強い人物「伯父(アンクル)アーサー」こと海軍少将アーサー・アーンフォード・ジェイスン卿の指示を仰ぎながら、カルバートは<とある事件>の実体を探るため、応援で派遣された海軍航空隊の青年スコット・ウィリアムズ中尉とともに、現地の調査を続けるが……。

 1966年の英国作品。別名義ふくめてマクリーンの第12作目の長編。完全に脂が乗って来た時期というか、十八番のマクリーン、パターン<いきなり(読者にとって)五里霧中のなかでの、主人公のクライシスシーン>に読み手を強引に付き合わせ、しかも危機状況のデティルを克明に描写。
 なんだなんだなんだ……と思わせながら、それでも読者の鼻面引き回して強引に作者のペースに持っていくマクリーンの盛り上げ方、今回もこれが全開である(笑)。

 マクリーンは、現代にいたる英国冒険小説の歩みの中で確実に「いったい何が起きているのか!?」という「ホワットダニット」の興味で読者を刺激する作法を最も有効に用いた作家のひとりだと思うが、とはいえもともと、こんな作法はヴェルヌの『二年間の休暇』など多くの先駆があるはずだし、決して珍しいものではない。
 
 もちろん、本作の先のレビューでTetchyさんがおっしゃられたような、いつまで読者に事件・事態の全体像を秘匿するのか、いい加減にしてほしい! という主旨のお怒りは、まったくもって素直で順当、健全な感慨だとは本気で思う。ときには私(評者)自身も、マクリーン作品に同様の感慨を抱くこともないではないからだ。

 一方で、評者は幸か不幸か、一番最初に十代半ばに出会ったマクリーン作品が、あの(当時、小林信彦や石川喬司とかが絶賛したような記憶がある)『恐怖の関門』である。冒頭いきなり、一人称の主人公が、裁判所から少女を人質に車で逃走、官憲そのほかの追撃をかわしながら、<いったい、なんで主人公は、なんのためにこんなことをしているのか!?>と当惑しながら読み進め、ようやく終盤になって愕然とする真相が明らかになる。
 いや、自分は、正にその『恐怖の関門』で原体験的に、絶頂期・黄金期マクリーンの醍醐味を知ったのだよ(笑)。

 先の『二年間の休暇』(十五少年漂流記)といえば、ドラえもんの中盤の某エピソードで、ドラがのび太に未来の道具を使って名作文学の面白さを啓蒙する回があり、そこで物語の冒頭、いきなり漂流シーンから始まった内容に接したのび太が「なんで子供だけでイカダ(船だったかな?)に乗ってるの?」とドラに尋ねる。そこでドラは一言「しー、黙って、物語に付き合っていれば、わかるよ」という主旨の言葉を返す。
 まさに、物語(のある種の作品)とはそーゆーものだと思うし、そしてまたのび太の反応も健全で自然だとは思うものの、読み手の方もまた、そういう種類のある種のじれったさをまた、送り手の演出として愉しむくらいの余裕があっていい、とも感じるのだ(くれぐれも、Tetchyさんに対して、不敬な物言いをする気などは毛頭ないのですが……汗)。
 
 つーわけで、良い意味で本作は評者の、マクリーン、かくあるべし! という期待の念に応えてくれた快作であった。
 ちなみに中盤からのストーリーの流れは、マクリーンがさる先輩の英国冒険小説作家の作品を意識し、自分なりにその本家取りをやりたかったんだろうな? という気配を感じるが、本作の中盤以降の展開のネタバレになりそうなので、その辺はムニャムニャ……。

 とはいえ、予期したように全体としては楽しい作品だったものの、実を言うと最後まで読むと、あるポイントで思うことがないこともなく、0.5点ほど減点しようかなあ、とも考えかけた。まあ、7点か迷った上で、この評点ということにしておく。

 やっぱ、エンターテインメント路線に本格的に舵を切った時期のマクリーン、改めて面白いわ。
 いまの時代、あまり読まれなくなっているのが、実に惜しい(涙)。

No.1 3点 Tetchy
(2014/09/29 13:22登録)
スコットランド沖で暗躍する海賊たちと情報部員フィリップ・カルバートの戦いだ。但し極限状態の自然との闘いはなく、狡猾で悪賢い海賊一味たちに徒手空拳で一人の情報部員が戦いを挑むという、これまたアクション映画のような作品だ。

しかしいきなり物語の渦中に放り込まれた読者は一体何のために主人公がこのような状況に追い込まれ、そしてなぜ主人公がそんな危険な船に潜入したのかがなかなか明らかにされないまま、物語は進み、カルバートたちの任務が明らかになるのは何と全370ページ中なんと240ページの辺り。
この暗中模索の中、物語が進むのは非常に居心地が悪く、カルバートと伯父アーサーの行動原理が解らない為、感情移入も出来ず、また馴れないスコットランド沖を舞台にしていながら、略地図も付されていない為、主人公たちがどこをどう行っているのかまったく位置関係が解らなく、単に読み流すだけになってしまった。

『最後の国境線』以来、どうもこのなかなか物語の粗筋が見えぬままにいきなり話が進んでいくスタイルをマクリーンは取っているのだが、これが非常に私には相性が悪く、全く物語に没入できなくなっている。本書も含め『最後の国境線』、『恐怖の関門』、『黄金のランデブー』などガイドブックでは高評価の作品として挙げられているが、いまいち物語にのれないなぁ。

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