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ミステリの祭典

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密やかな喪服

作家 連城三紀彦
出版日1982年06月
平均点5.33点
書評数3人

No.3 5点
(2021/01/05 09:02登録)
 『変調二人羽織』に続く、著者三冊目の作品集。「藤の香」「メビウスの環」の二篇と共に、雑誌「幻影城」1978年8月号《特集・連城三紀彦》の一作として掲載された「消えた新幹線」以外は全て、1980年後半から1982年にかけ各誌に発表されたものである。年代順に並べると 消えた新幹線/白い花/表題作/代役/ベイ・シティに死す/ひらかれた闇/黒髪 となる。
 『運命の八分休符』に先行するユーモア作品からスタンダードかつムーディーないつもの連城短篇、奇妙な味にややインモラルな残り香のする現代風の芸能・ヤクザ・不良少年もの、後期に繋がる男女相克サスペンスと、ミステリとしての結構は整っているものの、初期五冊のうちでは最も纏まりを欠く短篇集である。それもあってか「代役」「ベイ・シティに死す」「ひらかれた闇」の三篇は、のちの文庫本では分割収録されている。
 タイトルから期待していた「消えた新幹線」は伏線で魅せるが、特殊な状況下の変化球でいわゆる大手品ではない。「白い花」は序盤で作者の狙いが透けて見えてしまうのが難。「実験材料」改題の「密やかな喪服」はかなり怖いが、意図せずしてサイコパスの行動原理をなぞってしまっているので、発表当時の意外性は大きく損なわれている。これは作品云々よりも、単に時代が悪くなったと言うべきか。
 集中で光るのは「代役」。人気俳優・支倉竣は事故死した息子に執着する妻・撩子の奇妙な願いを容れ、自分とそっくりな男・タカツシンヤが二百万円の契約で、彼女と子供を作るのを承諾する。既に離婚を切り出され、赤坂のクラブに勤める衣絵という愛人もいる身では、それもたいした事ではなかった。だが瓜二つの存在にイラつかされ、更に撩子の真意を知るに及んで妻への殺意は一気に高まる。支倉は誰も知らぬタカツを共犯に使い、妻殺しのアリバイ工作を試みるが・・・
 「桔梗の宿」と併せ、ある後期長篇の雛形とも言える作品。収録作の中では最も切れ味が良く、反転の構図が冴えている。これに比べると任侠ものの「ベイ・シティに死す」は、ドラマ優先の造りでいささかぼやけ気味。次の「ひらかれた闇」は退学させられた元生徒五人組の中で起こった殺人を、呼び出された教師が解決するものだが、容疑者限定で本格味は強いもののこのキャラクターでこの動機は納得できない。
 次点はトリの「黒髪」。京都を舞台に病床の妻を抱える出版関係者と、女性染色師との十五年に渡る三角関係の決着を描いた短篇。情事の隙間に忍び込む女の髪を小道具に、最後は一気に隠微な悪意が襲いかかってくる。いい作品だが、推理と言うより因縁譚の味わいが強い。
 以上全七篇。ある意味バラエティには富むが、この作家の初期のものとしてはやや期待外れか。

No.2 5点 江守森江
(2010/04/29 07:22登録)
繋がりのない5編を纏めた短編集。
思い込みと捻りが作者らしい「代役」
定評になったと云える位に昔風ヤクザの描写が上手い「ベイシティに死す」
清水の次郎長と金色夜叉のパロディ風味に、アリバイ崩しを叙述(隠し事)で捻る「消えた新幹線」と、ここまでは水準レベル。
しかし、作者らしからず先の見える「白い花」に、捻りがなく夫婦間ホラーサスペンスな表題作「密やかな喪服」は期待ハズレに感じた。
夫婦関係や恋愛に問題を抱えながら連城作品を読んだら、そのまま登場人物になりノイローゼになりそうで怖い。

No.1 6点 こう
(2008/10/26 23:03登録)
 表題作の「密やかな喪服」は収録作の中では一番怖いミステリでしたが現実的なリアリティは低いかなと思います。夫婦とはいえこんな会話が成り立つのか、という印象でした。(阿刀田嵩の奇妙な味系でした)他作品も「夜よ鼠たちのために」ほどのトリッキーさはありませんが男女の機微をテーマとした連城作品らしいものも収録されており全体として水準作だと思います。

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