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ミステリの祭典

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敵手
競馬シリーズ/シッド・ハレー

作家 ディック・フランシス
出版日1996年10月
平均点6.00点
書評数2人

No.2 6点
(2020/03/02 22:36登録)
 白血病の娘レイチェルを持つ母親、リンダ・ファーンズの依頼で、放牧中の馬の前脚が次々に切断される事件の解決を請け負った競馬専門調査員、シッド・ハレー。だが個々の手口を精査するうち、次第にある男の影が浮かび上がってくる。
 エリス・クイント―― 元カリスマ的アマチュア騎手で長年の親しい友人。障害レース時代の好敵手にして、今は全国的なトークショーの司会者。そして、全イギリス国民のゴールデンボーイ。彼が一連の事件の犯人なのだろうか?
 信じたくない気持ちを抱えながらやがて確証を掴み、エリスを告発するシッド。だが彼の行為はエリスへの嫉妬と看做され、格好のゴシップとしてマスコミの集中砲火に晒されることになる。
 訴訟係属中の規定により、一切の証拠を公表できないまま轟々たる非難にじっと耐え続けるシッドだったが、やがて彼は憎悪煽動キャンペインの先頭に立つゴシップ紙《ザ・バンプ》の動きから、中傷の裏側にある企みの糸口を掴むのだった。
 『告解』に続く競馬シリーズ第34作で、シッド・ハレー三度目の登場作品。1995年の発表で、その翌年にはアメリカ探偵作家クラブのエドガー長編賞を受賞。クラウン作品ですがプロットにさほど捻りは無く、『利腕』の緊張感の名残はあるものの、本作においてはシッド・ハレーという大看板への寄り掛かりが目立ちます。
 元義父チャールズ・ロランドに続く精神的支柱アーチイ・カークの登場、および《ザ・バンプ》の毒舌コラムニスト、インディア・キャスカートとの恋愛などプラス部分を入れてもストーリーの作りは甘く、納得のいくものではありません。ラストで若干盛り返しますが、読後には満足感よりも内容の薄さが感じられます。諸要素の共通する初期の名作『度胸』との差別化を図ったのかもしれませんが。
 発売当時に期待して購入し、見事にコケた記憶がまだ鮮明なので、どうしても点が辛くなってしまいます。個人的には『再起』の方が好きなのですが、着膨れ気味とはいえこちらの方が評価高いのもまあ分かります。
 再読して若干印象が良くなったので、『再起』と同じく6点。でもシッド抜きのプロットのみだと、ぶっちゃけ5点作品です。

No.1 6点 tider-tiger
(2015/03/26 20:12登録)
シッド・ハレー四部作のうちの三作目にして倒叙ものです。
馬を残酷な手段で傷つける連続猟奇事件の犯人はシッドの騎手時代の友人であり、現在は有名なテレビ司会者のエリスであった。
相手が人気者だけにほとんどの人がシッドのことを信用してくれません。メディアからも執拗に痛めつけられます。そんな中、シッドは不屈の闘志で……。

※少しネタばれあります。

フランシスの筆力はさすがです。読ませます。が、いくつか苦言を。
強く感じたことは「中途半端が多い。もっと徹底すればいいのに」です。
例えば、ほとんどの人ではなく、すべての人がシッドを信用してくれない、このくらい徹底的にシッドを追い込んだ方が良かったのでは。
あとは強大な存在が事件の背後にいるとシッドは考える。その強大な存在は実は●●だった。この発想はまあ良しとしたい。ただ、その●●がちょっとしょぼいのが頂けない。ポカが多過ぎるし、悪に徹しているようでそうでもない。犯行も杜撰過ぎる。アリバイトリックなど自分が最初にそうなんじゃないかと直感した通りだったのでがっかり。
登場人物の一人、不良のジョナサンもいい味を出してくれそうだったのにいつのまにか気化しておりました。白血病の少女というのも手垢に塗れた人物造型。

人間ドラマに比重を置き過ぎている感があり、そのせいで重厚とは言えないプロットに比して本はやけに分厚い。無駄が多いと感じる方もいるかもしれません。
邦題の敵手。意図はわからなくはないのですが、個人的には原題のcome to grief を活かして欲しかったところ。哀惜 とでもした方が良かったのではないかと思いました。
それから訳文 女性の語尾、「~なの」が多過ぎ。 
以上、文句ばかりでしたが、細部にはいいところも多々あり、自分は楽しく読みました。
けして退屈な作品ではありません。が、大穴、利腕は8点ですが、この敵手は6点かな。どうしても大穴、利腕と比べてしまう……amazonではけっこうみなさん高評価を付けていらっしゃるようです。

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