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ミステリの祭典

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リオノーラの肖像

作家 ロバート・ゴダード
出版日1993年01月
平均点8.33点
書評数3人

No.3 9点 YMY
(2022/03/18 23:17登録)
幾つもの謎が絡み合い、身代わりや叙述トリックなど巧緻な仕掛けも満載。加えて逃亡兵の汚名を着せられた父親の哀しみが全編を貫き、第一次大戦を背景にした戦争文学としても優れている。

No.2 8点 ROM大臣
(2022/01/20 15:26登録)
プロットは簡単に要約できるものではないほど錯綜している。語り口も過去の探索物語を一人称で語るという制約から、リオノーラの回想の中に別人物の回想が織り込まれ、さらにまたその中に...という形で重層構造になっている。
この小説を支える中心は「嘘」である。それも真に人間的と呼べる嘘なのだ。そこには友情や親子愛といったさまざまな形の愛のために、どうしても嘘をつかねばならなかった人間がいる。エンディングは感動的でもある。

No.1 8点 tider-tiger
(2016/11/26 11:00登録)
表紙絵に既視感があった。背景の家……どこかで見たことあるような気がしてならなかった。どうやらキングの『シャイニング』の表紙絵を描いた人らしい。なんてことない絵だと思っていたけど、結構特徴のある画風なのかも。シャイニング同様、この物語も家の話だし(家の意味合いは違うけど)、家にインパクトがあるのはいいことだ。

そんなわけで、あらすじをと思ったのだが、非常に書きづらい。簡潔に言うと、リオノーラ・ギャロウェイ(70歳)が自身の家族にまつわるさまざまな秘密を娘に語り聞かせる話。
いろいろと複雑なのだが、主要な謎はリオノーラ・ギャロウェイの父親の正体とリオノーラ・ハロウズがリオノーラ・ギャロウェイを身籠っている時に起きた殺人事件の真相。
お分かりかと思うが、主要人物(母娘)二人ともにリオノーラなので紛らわしい。構造が三重の入れ子なのも相俟ってときおり混乱した。
前回書評した『千尋の闇』では女性キャラの「問答無用」がイマイチ納得いかなかったが、今作でもリオノーラ(母)の強固な「だんまり」ぶりに当惑した。また同じような瑕疵か……と懸念あったが、これは正当な理由があった。しかも、読者が仮説を立て、論理的にだんまりの理由を導き出せる。良い「だんまり」だった。ミステリとして一番の読みどころはリオノーラの「だんまり」の理由を考えることかもしれない。
そんなわけで、私はけっこう早い段階で全体の構造は予想がついてしまった。殺人事件の犯人もこの人ではなかろうかと当たりはついた。それでも楽しく読める。
ただ、本作でも主要人物がかなりの大ポカをやらかす(手紙に関すること)。あれはあり得ないと思う。

デビュー作『千尋の闇』とは違った読み味、内容のようだが、小説の作り方(過去への拘り郷愁、焦らし方、人物設定、伏線の張り方などなど)は似通っている。この人は癖がわかりやすいですね。読めば読むほど手の内が読めてしまう作家かも(だからといって読めば読むほどつまらなくなってくるわけではありません)。

ミステリ要素を重視する読者にはイマイチかも(ミステリ以外の部分がかなり長大でしかも洞察というか感覚というかでしか犯人には辿り着けない)。
物語性を重視する方にはお薦め。

最後に
原題は In pale battalions 最後の四行の詩がこのタイトルと密接に関係があるのではないかと。少なくともこの話は「リオノーラの肖像」ではないと思った。

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