思考機械の事件簿Ⅱ 思考機械 |
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作家 | ジャック・フットレル |
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出版日 | 1979年12月 |
平均点 | 6.00点 |
書評数 | 3人 |
No.3 | 6点 | おっさん | |
(2012/09/17 09:21登録) 創元推理文庫の<シャーロック・ホームズのライヴァルたち>、第二期ぶんから(1979年12月刊)。 『思考機械の事件簿』は、他の“ライヴァル”たちに比してセールス面で健闘したのか、のちにⅢまで出版される破格の待遇ぶりでしたが、Amazon で見ると、2012年9月現在、このⅡだけ品切れのようです。 オーソドックスなベスト盤的編集のⅠ(「十三号独房の問題」が入っていないという、かなり大きな問題をのぞけばw)のあとでは、落ち穂拾いの感があるのは否めませんが、そのぶん異色の作品にも光が当てられており、一読の価値はあります。 収録作は―― ①呪われた鉦(かね) ②幽霊自動車 ③復讐の暗号 ④消える男 ⑤跡絶えた無電 ⑥ラジウム盗難 ⑦三着のコート ⑧百万長者ベイビー・ブレイク誘拐 ⑨モーターボート ⑩百万ドルの在処(ありか) ⑪幻の家 ②以降の10編のうち、②⑤⑥⑨が、シリーズ第二短編集The Thinking Machine on the Case(1908)からの選択。ほかは、Boston American やSunday Magazine に載ったきり、作者の生前の著書には未収録だったものです。①については後述。 多彩な謎づくりとテンポの良いストーリーテリングに秀でるも、しょぼいトリックと釈然としない種明かしに脱力させられる、というのが、フットレル作品の通弊ですね。死者の操縦する“モーターボート”(⑨)然り、雪上の足跡がかき消えての“百万長者ベイビ-・ブレイク誘拐”(⑧)然り。 同一地点で消失を繰り返す“幽霊自動車”(この②は、ハヤカワ・ミステリ文庫版『思考機械』にも採られていることからわかるとおり、シリーズ代表作のひとつと言っていいわけですが)などは、過剰演出が裏目に出て、ストーリーの信憑性が消し飛んでしまいました。 現象が繰り返されれば、証人も落ち着いて対処できるようになるわけで、その噴飯ものの“正体”に気づかないでいられるわけはありませんし、それを承知の“連中”が、ハイリスクな強行突破を続ける必然性もありません。つかまってしまったら元も子もないわけで、だったら多少遠回りでも、次善のルートを捜すのが当然でしょ? 解き明かされる真相が、謎の異常性と釣りあう重みと説得力を有している点で、集中、一、二を争うのは、妻メイの創作した怪談にフットレルが合理的な解答を示したという触れ込みの、共作⑪ですね。 その伝説的エピソードの真偽はさておき、≪問題編≫からたくみに伏線を拾い上げての、家屋消失(プレ「神の灯」)の謎解きは、ありがちな錯覚をベースにしたシンプルなものだけに、逆にストンと胸に落ちます。 また常識はずれの内容を綴った手記を、名探偵が“事実”として読み解く試みは、島田荘司の遥かな先蹤として興味深いものがあります。 あえてイチャモンをつけるなら、あれだけの怪異に翻弄された人間は、そのまま心を病んでしまうのではないか、ということ。わざわざ(手掛りを忍ばせた)詳細な手記を残してから、発狂するものでしょうかねえ・・・ とまれ、力作であるその「幻の家」を、作品配列の最後に持ってきているのは、編集上の常道でしょうが、個人的にオーラスにふさわしいと思っているのは、じつは巻頭に置かれた①なんですね。 1906年にSaturday Evening Post に発表され、のち1970年代にアンソロジーにリプリントされるまで、わずかにフットレルのノン・シリーズ長編The Diamond Master の英版(1912)に併録されたきりだったという、いわくつきの一編です。 ひとりでに鳴り出す、日本製の“呪われた鉦”をめぐる、怪奇趣味と不可能興味の塩梅の良さ、そして解明のプロセスの納得具合は、「幻の家」と双璧。くわえてシリーズ・キャラクターものの探偵小説でそれをやるか、というフィニッシング・ストロークが不気味な余韻を残します(その余韻をより効果的にするには、巻末に配すのがベターと思うわけです)。 フットレルは、思考機械にさんざん「論理」を言挙げさせながら、じつは微妙に割り切れない部分を小説に残す――結局、犯行動機はわからなかった、とか――実験をアレコレやっていて、率直に言ってそれは失敗に終わっているものが大半(手抜きと紙一重)だと筆者は感じていますが、「呪われた鉦」の“型破り”には、心から敬意を表します。 たとえ怪我の功名であっても・・・“それ”はのちの本格ミステリ史に、地下水脈のような系譜をうむことになりました。 過渡期のアメリカ作家フットレル。しかし「十三号独房の問題」とこの「呪われた鉦」に関する限り、“シャーロック・ホームズのライヴァルたち”というくくりを超えて独自性を主張できる、ミステリ短編の収穫と信じます。 |
No.2 | 6点 | kanamori | |
(2011/07/15 18:09登録) ”思考機械”ことヴァン・ドゥーゼン教授シリーズの第2短編集。 印象に残った作品を挙げると、まず怪奇趣向と不可能興味の「呪われた鉦」。珍しく?伏線が丁寧に張られているうえに、一応の真相が語られた後のラスト2行での暗転に凄味がある。 夫婦合作というか、夫人が問題編を担当し相談せずにフットレルが解決編を書いたという二部構成の「幻の家」。消える家のトリックは単純だけど盲点をついている。クイーンの名作中編に比肩しうるのでは?幻の家に住む老人の秘密も意表をつかれた。 「百万長者ベイビー・ブレイク誘拐」は雪上の消える足跡トリックによる幼児誘拐もの。もし、ポーがこの作品を読んだらどんな感想をもつだろうか(笑)。 あとは総じて、謎の設定自体は魅力的だけど、真相が拍子抜けなものが多かった。 |
No.1 | 6点 | mini | |
(2009/09/24 10:19登録) 明日25日発売予定の早川ミステリマガジン10月号の特集は、”ドイル生誕150周年” 150周年なんて区切り方があるとは思わなかったよ 便乗企画としてホームズのライヴァルたち 創元文庫のホームズのライヴァル企画の内、思考機械だけは全3巻もあって唯一優遇されている まあ他のライヴァルに比べると、オカルト色が有ってトリック中心という日本の本格読者がいかにも好みそうなタイプだもんな Ⅰ巻目でも述べたが思考機械シリーズは案外とトリックはちゃちなものが多くて、トリックの質だけならソーンダイク博士シリーズの方が断然優れている ソーンダイク博士はトリックが解明されると”へぇ~”って感じだが、思考機械はネタが明かされると”なぁ~んだ”となる 思考機械の持ち味はトリックそのものではなくて、現象の見せ方プレゼンテーションが際立っている点だ このⅡ巻目収録でも「幽霊自動車」や中編「呪われた鉦(かね)」などはその典型例 「幽霊自動車」はトリックの真相は予想通りだったが、不可思議性をこれでもかと説明する演出は持ち味が良く出ている もう一方の「呪われた鉦」は、この第Ⅱ巻のみならず他の思考機械シリーズと比較しても特に素晴らしく、真相は”なるほどね”程度だけれど、オカルト風な演出の上手さの面に脱帽で、ラストなどはカーの某有名作をさえ思わせる 中編の分量なのがネックだが、読者によっては「十三号独房の問題」よりも、この「呪われた鉦」を代表作に推すかもしれない ちなみに”鐘”ではなくて”鉦”なのは、音程の違う複数の鐘がセットになった銅鐸みたいなものだからだろう ラストの「幻の家」は、メイ夫人が書いた問題編に夫のフットレルが解決編を書いた合わせ技 本来は別々の作品扱いなのだが創元編集部で「幻の家」という仮の総合タイトルを付けたもの、勝手にこんな事しちゃっていいの?創元 謎の家の老人が足音も立てずに歩く謎までは解明出来ていないのが惜しいが、でもフットレルの解決編は上手い しかしそれ以上に見事なのがメイ夫人の問題編で、夫より筆が立つんじゃねえの、怪奇小説を専門に書いてたらそれなりに名を残せたのではないかな |