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ミステリの祭典

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かくてアドニスは殺された
ヒラリー・テイマー教授シリーズ

作家 サラ・コードウェル
出版日1984年11月
平均点6.67点
書評数3人

No.3 6点 人並由真
(2022/07/11 07:43登録)
(ネタバレなし)
 ロンドンにある若手弁護士の集う実務組織「リンカーンズ・イン法曹学院」。そこの弁護士のひとりでドジ娘のジュリア・ラーウッドは、イタリア美術の探求ツァーに参加。ヴェネツィアに赴いた。ジュリアの同僚たちやオクスフォードでの彼女の恩師だったヒラリー・テイマー教授は、天然娘の旅路に大事がなければと願うが、やがてテレックスでそのジュリアが殺人の容疑で逮捕されたという知らせが入る。ヒラリーと若手弁護士たちは、ジュリアが旅先からこまめに送ってきた長文の手紙を読み込み、隠された事件の真実を探るが。

 1981年の英国作品。
 コードウェル作品は初めて手にする評者だが、本サイトでもなかなか評判がいいようなので、このヒラリー教授シリーズの一冊目を読んでみた。

 なるほどウワサに聞いていたとおり、これはちょっとひねった(手紙での情報開示を前提にした)『毒入りチョコレート事件』というか『火曜クラブ』または『ブラックウィドワーズ・クラブ』というか。つまりは安楽椅子探偵+多重推理ものであり、後半には青年弁護士たちによる探偵団もの的な趣もある。
 
 まあリアルに考えるなら、(国際電話はお金がかかるからという理由で)ジュリアが連日、書き終えるまでに数時間はかかりそうな長い長い文面の手紙を連日送ってくるというのも、いささか無理がある(笑)。旅行先での結構な時間をその作業に奪われてしまうよね? 
 その手紙の文中に、伏線や手掛かり、人間関係の情報などがみっちり書き込まれており、ミステリの作法としてソレが有効なのは、もちろんわかるのだが。
(なんつーか、招待状を出したら、受け取った人間=十人全員がちゃんと一人も欠けることなくインディアン島に来るぐらいに? ウソ臭い・笑。)
 
 とはいえその辺のお約束または様式を踏み越えるなら、軽薄かつにぎやかにワイワイ騒ぎ合う推理合戦(というか仮説や思い付きの放り投げ合い)は何とも言えずに面白い&楽しいし、中盤、ジュリアからの手紙オンリーが情報源というのにムリを感じて? 流れが変わってからもまたストーリーに起伏が生じてヨロシイ。小説の潤い的にたっぷりと仕込まれた、細部の英国風ドライユーモアの面白さもお腹いっぱい。

 真相はややチョンボ……という感じがしないでもないが、たしかに整合はされるように書かれているハズだし、そしてそれを了解するならば、殺人実行時の何とも言えないイメージもけっこう鮮烈。
 大ネタそのものは、英国の某巨匠がよく使いそうな手ではあるけれどね。

 本サイトで聞いていたウワサからイメージしていたものとは、若干違ったけれど、これはこれで確かに面白かった。

 なおminiさんが指摘されている、主人公探偵は実は女性ではないか? 説。当初からこちらもその辺は重々意識しながら読んだつもりだけど、う~ん、確かに徹底的にアイマイに書かれていますね。
(翻訳もその辺を自覚的に、ちゃんと演出して訳してあるようにも思える。)
 意図的にジェンダー不明? の主役探偵という趣向は、これまでに何かあったかな。あったような気もするが、長編、それもシリーズものではかなり珍しいのは間違いない。

No.2 6点 nukkam
(2009/06/08 17:22登録)
(ネタバレなしです) 英国のサラ・コードウェル(1939-2000)は名門オクスフォード大学出身で弁護士を勤めたこともある女性作家です。ティマー教授を探偵役にした本格派推理小説はわずかに長編4作と短編1作と極めて寡作家でしたが上品なユーモア、深い文学知識、そして緻密な謎解きが高く評価されています。本書は1981年発表のデビュー作で前半をジュリアからの手紙、後半をティマー教授と若手弁護士たちの探偵活動という構成をとっています。表現が回りくどかったり教養が鼻につくところもありますがユーモアでうまくフォローしており、特に前半部は大変面白かったです。真相にちょっと不自然さを感じましたが大胆かつ周到な謎解き伏線が張ってあり、よくできた本格派推理小説です。

No.1 8点 mini
(2009/04/07 09:45登録)
英国現代本格で、そもそも数年に一作という寡作なのに、これからという時に逝去したのが惜しまれる作家
文章から教養が滲み出るだけでなく、気品のある上質なユーモアも最高だ
この作品でも、あわて者のジュリアからの能天気な手紙にも思わず笑ってしまうが、探偵役テイマー教授の教え子達の手紙に対する冷静皮肉なコメントの数々にはさらに爆笑
英国現代本格ってこういう作家がいるから目が離せないよな

探偵役テイマー教授は翻訳では中年男性風に描かれているが、原著の英語では年齢性別も不詳で、今ではテイマー教授=女性説の方が有力らしい
しかし翻訳者も出版エージェントも、この作者が読者に対して仕掛けた趣向に当時は気付かずに訳された
刊行時はそこそこ話題になったらしいが、たった長編四作なのに全作ポケミスのまま未だに文庫化されてないのも、改訳すべきなのかどうか版元の早川書房も迷ったのが原因ではないだろうか

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