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ミステリの祭典

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水平線の男
別邦題『地平線の男』

作家 ヘレン・ユースティス
出版日1963年01月
平均点7.00点
書評数3人

No.3 8点 人並由真
(2020/03/28 14:54登録)
(ネタバレなし)
 コネティカット州ウェストライマンの町。その年の11月13日。女子大の英文学の助教授で、自作の詩の著作もある29歳のケヴィン・ボイルが、火掻き棒の一撃で惨殺される。ボイルはアイリッシュ系の美男で、女生徒や同僚、さらには近隣のショーガールとも浮き名を流す女好きだった。その関係者の中に犯人がいるのか? 一方で事件の直後、現場の周辺で錯乱していた地味な新入生モリイ・モリスンが自分が犯人だと自白。だが学長のルシアン・ベーンブリッジは平静を欠いたモリイの告白に疑義を抱き、旧知の精神病医ジュリアン・フォーストマンのもとにモリイの身柄を預ける。ベーンブリッジは学内に箝口令を敷くが、その隙間を潜って赤新聞「メッセンジャー」の青年記者ジャック・ドネリイは、社会学科の冴えない女子大生ケート・イネスに接触。事件の情報を得ようとするが……

 1947年のアメリカ作品。家の中に何十年も前から、創元推理文庫版と別冊宝石版(『地平線の男』)があったが、どっちかの翻訳に問題があるらしい? という風聞を聞いていたので、どちらで読むか迷って手が出せずにいた。
 しかしいい加減めんどくさくなってきたので(汗・笑)、とりあえず手元のそばにある創元版で読む。

 大ネタそのものは評者の少年時代から、例の石川喬司の『極楽の鬼』(ミステリマガジンに連載された翻訳ミステリ時評の集成)での無神経な記述(「この『水平線の男』は、あの有名な作品『(具体名)』の先駆である」という主旨の)でバラされていた。
 『極楽の鬼』そのものは名著だと思うし、後続連載「地獄の仏」(元版の早川版にはそちらは一部収録。講談社版『極楽の鬼』には「極楽の鬼」とあわせて完全所収)とともに日本の翻訳ミステリ評論史における重要な文献だとは思うが、この手の無自覚な悪意があるので注意! である(当時の早川の編集部も無能だったとも思うが)。
 もしかしたら他にもいろんな経緯で、この作品の大ネタって、未読の人にもけっこう有名なんじゃないかな。もちろん知らなければ知らないで、それに越したことはないとは思うものの。

 というわけで評者的には、ネタバレ上等、犯人まるわかりが覚悟、を前提に読み出したのだが……おや、これは意外にフーダニットとしての興味をそこなわずに読める(嬉)。
 冒頭のプロローグ的な第一章で、本名の不明な犯人にボイルが惨殺される場面から開幕し、続く物語は、ではその犯人は? の興味に移行する。
 とはいえ読者の視線的にはまず、真犯人だとの名乗りをあげた娘モリスンの自白の検証に付き合わされるわけで、その一方で彼女が犯人ではないならば誰か? という読み手の関心に応えた別の登場人物の捜査も進行する。この辺の叙述がずばりマーガレット・ミラー的なニューロティック・スリラー調に緊張感と妖しさ、時に妙なユーモアをまじえて語られ、実に面白い。
(逆説になるが、実はネタバレで大ネタを知っている読者の方が、あ、もしかしたらこの部分は……とか、この記述は……などと頭が働き、楽しめる面もある。いや、ネタバレの災禍をくらった者の、負け惜しみじゃないです(笑)。)

 はたして最終的な真相は、かなり紙幅を使い切った終盤のぎりぎりまで隠されており(ただし中盤……ムニャムニャ)、そこに至るまでのサスペンスは絶妙。
 評者がこの数十年間に抱えてきたもろもろの私的な思いを経て、最後に向き合った事件の実態と真実には当然ながらけっこうな感慨が湧いたが、それこそ余計なことを言うとまずいのでここでは基本ダマっておく。
 ただまあさすがに一度読んだ部分を一部読み返して、うーんとうなったりはしたけれど。

 手放しでホメることはないけれど、(評者&あるいはネタバレをくらった、まだ本作を未読の読者にとって)ネタバレをこうむりながら、それでもその悪条件を跳ね返して楽しませてくれた一冊という点は限りなく評価大。
 中盤のゾクゾクする人間関係の怖さ(特に森の中の場面)も強烈な印象度で、ワンアイデアに頼らなかった意味でも名作認定していいのではないかと。
 感覚でいえば近年、論創が発掘してくれるクラシックのなかで、10冊に一冊くらいの割合で出会える? アタリ作品という手応えである。

 最後に、解説の厚木淳、本作を10年に一冊の傑作とか大褒めで、まあそれにはおおむね異論がないんだけど、この作品ってたしか1947年度のMWA最優秀長編賞(時期的には、実質は最優秀処女長編賞)受賞作品だよね?
 巻頭の前説でも巻末の解説でも、まったくそのことに触れてないのは、どういうわけだったのでしょう?

No.2 5点 nukkam
(2014/08/29 16:56登録)
(ネタバレなしです) 米国のヘレン・ユースティス(1916-2015)は本書の他にもう1冊しかミステリーを書かなかったそうですが、1946年発表のデビュー作である本書は発表当時、その大胆なアイデアが大変な騒動を巻き起こしたことでミステリ-史に名を残しました。一般的には本格派推理小説として評価されていますが、心理サスペンス的な味付けもあります。特定の主人公を置かないプロットは結構読みづらく、殺人事件なのに警察が全く登場しないのも違和感を感じさせます。最後に明かされる真相は確かに当時としては前衛的でさえあったでしょう。とはいえ前衛は前衛、一般受けは難しいと思います。

No.1 8点 こう
(2008/05/18 00:57登録)
 ネタバレあります。
60年以上前の作品で作風は古臭いですがおそらくミステリのあるジャンルの先駆的作品と読了後にわかりました。この犯人のアレンジは現代では珍しくなく国内にもあるため途中で犯人の見当がつきましたが当時では衝撃的だったと思います。とても面白かったですがもっとビギナーのうちに読みたかったというのが正直なところです。

マクロイ作品を読んで1点減点しました。

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