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ミステリの祭典

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フォーチュン氏を呼べ
フォーチュン氏

作家 H・C・ベイリー
出版日2006年05月
平均点6.00点
書評数3人

No.3 7点 弾十六
(2022/10/07 03:30登録)
1920年出版。初出雑誌不明ですが、ちょうどキリの良い六作なので雑誌か新聞掲載の連作なのでは、と思っています。FictionMags Indexはこの頃の英国情報が薄い印象があるのです。(でも今、このあたりのPearson誌やLondon誌やWindsor誌をチェックしたら、昔と違ってほとんど目次が埋まっていた。英国主要誌の情報は既に網羅されているのかも)
私は別の一作だけをアンソロジーで読んで、フォーチュン氏の性格が好みだとわかったので、初登場作品集を楽しみにしていました(創元文庫の「事件簿」は入手済みですがまだ読んでいません)。なんだか反骨心とユーモア感があるんですよね。

(1) The Archduke’s Tea「大公殿下の紅茶」: 評価5点
ボヘミア王国が登場するのは、シャーロックの短篇第一作にならったのかな。ミステリ的には雑な話ですが、探偵の初登場作品として、名刺がわりのレベルは満たしています。
p2 ミュージカルコメディー… ゴルフ… 競艇(musical comedy… golf… bargees)♠️ bargeは平底船だが、英国に競艇に相当するものがあったっけ? ここはよくテムズ川に浮かんでいる運搬船のことだろう。翻訳はバージ・マッチのことを意識したのかな?(The Thames and Medway barge matchesには古い歴史がある)
p5 ヴィステルバッハ(Wittelsbach)
p7 みだらな美しさ(wickedly beautiful)
p11 ローソン・ハンター医師(Sir Lawson Hunter)♠️ここはSirを明示して欲しいところ。
p15 あのお騒がせおばさん(Aunt’s in a mad-house)
p16 プラガス家(Pragas)
p29 ほんとうにお若い(you are a boy)
p30 スタンリー・ローマス部長(the Hon. Stanley Lomas)♠️ こういう称号が付いている、ということは貴族なのだろう。
(2022-10-3記載)
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(2) The Sleeping Companion「付き人は眠っていた」: 評価5点
companionを「付き人」とは珍しい。フリガナ風に「コンパニオン」と一回やっておいてくれれば良かったなあ、と思います。コンパニオンは召使いじゃないので食事は一緒に取ります。ピーター・ウィムジー卿は従者バンターを食事に誘ったことがありますが、彼は絶対に同席しません。
こちらもミステリ的には手がかりを読者から隠した古いタイプの探偵小説。
p50 猫かぶり(pussy-cat)◆ フォーチュン氏は猫嫌い。
p53 見るからにユダヤ人(emphatically a Jew)
p53 弁護士事務所(solicitors)
p54 穴馬(ダークホース)(dark horse)◆ 英国では「非常に優れた能力を持っているが、自分についてあまり語らない人」という意味もあるらしい。
p55 男と男の相談です(Speaking as man to man)◆ man to manは「男対男で腹を割って」という意味のようだ。カタカナ英語「マンツーマン」はone on oneが相当。
p56 ハロウェー(Holloway)◆ HM Prison Hollowayは1852建設で1903年以降は女性専用刑務所。
p59 あのインディアン・ジョニー(that Indian Johnny)◆ 唐突に出てくるが「あのインド人ジョニー」という事かな?
p62 検死審問◆ 興味深いところがいろいろある。用語が不適切なところもちらほら。翻訳者はインクエストの趣旨と裁判との違いがよくわかっていないようだ。少し前から私も気になっていて、インクエストについてしっかりしたレポートを書きたいなあ、と思っているがなかなかまとまらない。もう少々お待ちくださいね。
p64 裁判長◆ 原文sirだけ。インクエストは裁判ではないので、この訳語は不適切。「検死官」と呼びかけるのが正解だろう。
p65 被告人席(there)◆ インクエストなので「被告」という概念は無い。全ての関係者は「証人」という立場で検死官から質問される。
p65 裁判官が(the court)◆ ここはthe coroner’s court(=inquest)のこと。「法廷」だと裁判プロセスだと誤解されちゃうので「審廷」と訳したい。なお、ここら辺は、陪審長が「こいつ[変なことを外野から口走っていますが]呼びだします?」と質問して、検死官が「後から審廷に呼んでコイツの言い分をあらためて聞くよ」と宣告している場面。翻訳では誤解している。
p65 弁護団(the lawyers)◆ 被告的立場の者の「弁護団」(ここではソリシタが出席)に、検死官から質問の機会が与えられている、という興味深い場面だが、インクエストなので検察側、弁護側、というのは正確ではない。「法律家たち」というような中立的な用語の方が適切だと思う。まあでも訴追されそうになっていてそれを弁護するために弁護士たちがインクエストに出席しているのだから「弁護団」でも許容範囲か。なお当時は「裁判」においてはバリスタだけが法廷内での全ての弁論を受け持つ。
(2022-10-3記載)
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(3) The Nice Girl「気立てのいい娘」: 評価5点
オーラスの締め台詞は意味が違うと思う。全篇に微妙なニュアンスの文章がちらほら。原文を読んでも私には全部汲み取れないレベル。気づいたところだけ(ネタバレにならない範囲で)以下にあげておきます。
本作も手がかりをあらかじめ明示しない「古臭い」探偵小説。フォーチュン氏が裁判になるまで警察に重要証拠を隠してるのは、やり過ぎでしょう。
拳銃が登場しますが、使ってる用語から判断すると作者は全然詳しくなさそう。まだ線状痕比較もパラフィン検査もこの世に存在してない時代の物語です。
p75 犯罪外科の専門家(the surgery of crime)♣️ なぜ「外科」が出てくるか、というと、外科医は英国ではMr. と呼ばれるので、Dr. じゃなくてMr. Fortuneと呼ばれるなら外科医みたいだ、と感じているからか。短篇集タイトルの含意もそういうことかも。
p76 有線印字式電信機(テープ・マシーン) (tape machine)♣️ こういう無粋な機械が一流クラブにあったんだねえ。株式用のticker tape machineが有名だが、ニュース用のもあったのだろう。
p76 また事件か!(Oh, my aunt!)♣️ 私はファイロ・ヴァンスで初めて目にしたのですが、当時流行していた言い方なんでしょうか?
p76 惜しい人間をなくしたものだ!(“Well, he won’t be missed!”)♣️ 私は「悲しむ奴なんていないだろう」という意味だと思いました。
p77 スリーカードポーカーや指ぬき(シンブル)賭博(works with three cards, the thimble, and the pea)♣️ 指ぬき賭博(the thimble and the pea=shell game、イカサマ)と同じく三つの中から当てるカード・ゲーム(こっちもイカサマ)と言えば… スリーカード・モンテ(Three-card Monte)ですね!Web検索すると同様の用例も見つかりました。スリーカード・モンテは私も昔、練習したなあ。マジック番組でダイ・ヴァーノンが江國滋に実演したのを見たことがあるよ(歳取ってて手先がヘロヘロだったけど、昔はかくや、と思わせる雰囲気だった)。試訳「スリーカード・モンテとか指ぬきと豆というイカサマ賭博」
p78 かなり癖の強い性格だったと(with a certain gusto)♣️ セシル・ローズにこう言わせるなら、ああ、そういう感じの奴らなんだろうね、と思わせる表現だろう。試訳「歯ごたえのある相手だったと」
p78 激しく享楽的な(hard and fast)
p79 豚を殺すことは正当と認められている(Justifiable porcicide)♣️ ここは長い単語風に翻訳して欲しいなあ。試訳「無問題正当的な殺豚事件だ」
p80 三指に入る(Third Prize)♣️ この翻訳もアリだが「第三位」で良いのでは?
p81 真実をふたりで解明しよう(we’ll comb it all out)♣️ 「俺たちならなんとか切り抜けられるさ」という感じだろうか。
p84 お抱えの使い走り(factotum)
p84 三八口径のリボルバーです(.38 revolver bullet)♣️ ここは弾丸のことを言っているので「三八口径のリボルバー用の弾だ」ライフル用の弾丸ではなく、拳銃の弾だった、という趣旨だろう。
p87 彼も自分の土地を庭園と呼んでいる(he calls it a park too)
p88 派手だ(showy)
p89 想像力をはたらかせる努力(You know you’ve got imagination)
p90 ずいぶん偉そうですね(That’s very haughty of you)
p90 予言者(clairvoyant)♣️「千里眼」
p91 スミスサズラン三八口径(A Smith-Southron .38)♣️ もちろんこんなメーカー名は存在しない。普及してる拳銃、という設定なので、Smith & Wessonだろう。Westの連想でSouthとしたのかな? (2022-10-8追記: 当時一番流通していたS&W38口径は(多分)Military & Police、戦前モデルはハーフムーン・サイトなのでカッコ良い)
p94 すぐに別の容疑者が逮捕されますよ(Pitch up another)♣️ この翻訳だと意味不明に感じる。クリケット用語かも。直訳は「別の球を投げてくださいよ」野球用語に意訳して「直球勝負ですか?」ということかなあ。(2022-10-7追記: クリケットでは打者が打てる範囲を大きくそれて投げたボールはノーカウントになる。ここではあまりに率直な質問(暴投)に対して、返事が出来ない(打てる範囲じゃない)と言ってるのでは?と解釈したのです。「打てる範囲に投げてくださいよ」と訳すとわかりやすいでしょうか)
p95 五対八(Five-eighths)♣️ 八分の五
p96 ならずもの(a bit of a tough)
p96 ついに解答は見つからず、彼はいつもこの事件を自分の失策のひとつと言っている(He never saw his way through it, and has always called it one of his failures)♣️ 「解答は見つからず」は言い過ぎだと感じた。
p100 はかなく過ぎるは幼年時代… (Childhood’s years are passing o’er us… Soon our schooldays will be done. Cares and sorrows lie before us…. Hidden dangers, snares unknown)♣️ ここら辺はWilliam Dickerson作詞のHymn (1841)の冒頭部分の引用。W. Howard Doane作の“Adoration”(1883)の曲にのせて歌われるようだ。
p101 一般訴訟は巡回法廷で争われ、まずXXXに対する反対尋問がはじまった(The general action was fought at the assizes. The interest in it began with the cross-examination of XXX)♣️ 先に尋問があって、それから反対尋問、という順番。試訳「巡回裁判は型どおり争われた。興味深いところはXXXの反対尋問からだった」
p101 弁護士は検事側に向かって問いかけた(said counsel for the Crown)♣️ここは明白に誤訳。「検察側弁護士は言った」英国では専門の検事職は存在せず、裁判ごとに適切なバリスタが選出され、検察側の弁論を行う。
p103 三八口径のスミスサズラン弾倉銃(Smith-Southron .38 magazine pistol)♣️ magazine pistolという表現は見たことがない。作者のつもりでは.38 caliber(口径)の弾倉magazine(リボルバーなので本当はcylinderだが)を持つピストル、なのかなあ。
p104 熱心さが仇になった。ミスター・イージーになっていたようだ(“Zeal, all zeal, Mr. Easy”)♣️ フィリップ・マクドナルド『鑢』で調査済みだったので、ピンときた。『熱意、あらん限りの熱意!』Captain Frederick Marryat著の小説"Mr. Midshipman Easy"(1836)からの引用。
p108 今年… 来年… 桃を五個(This year, next year… May I have five peaches)♣️ 何か占ってるような感じ。五個にも意味がありそうだが、よくわからなかった。
p110 XXXがYYYでなければ、ぼくはZZZを一生信じないだろう(Never trust a really ZZZ unless you’re YYYing XXX)♣️試訳「XXXとYYYのつもりでなけりゃ、ZZZを信じるもんじゃない」
(2022-10-7記載)
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(4) The Efficient Assassin「ある賭け」: 評価6点
原題に忠実に「腕のたつ暗殺者」で良いのでは? 言葉を繰り返すのがフォーチュン氏の癖のようだ。(本作でもBut it’s all wrong, Bell, it’s all wrongとある。翻訳では同じ言葉を使ってないので目立たないのだが)
何か変だな、という雰囲気が良いが、翻訳のニュアンスずれがある感じで(わたしの英語読解力も怪しい)十分に楽しめていない気がする。ミステリ度は前3作と比べるとやや複雑になっている。最後のセリフには裏の意味があるのかなあ。
p113 記憶から消し去ってしまいたいと思いつつ、忘れられなかったこれらのエピソード(who never forgot anything when he wanted it, knew at the back of his mind)♠️ 試訳「必要があれば必ず思い出せるたちなので、意識せずに覚えていた」
p115 帰りがけに何か言わなかったか?つまり(And you heard nothing? Yes)♠️ 大事なセリフだが勘違いして翻訳している。ここは「(近くで事件があったのに)何も聞こえなかったのか?」という質問。Yesは相手のセリフを省略して「ああ、何も聞こえなかったんだな」ということ。
p117 二千ポンド(twenty thousand)♠️ 大事なところで残念なケアレスミス。
p118 ほんとうに刺殺されたのか?(I suppose the old boy was stabbed?)♠️ 繰り返されるフォーチュン氏の疑問は全部 I supposeで始まる文。軽い疑問なのかな? 試訳「刺殺されたようだね?」
p118 細い短剣の一種だ… 聞いたところではイタリア製のようだ(“…Sort of stiletto or dagger.” … “Sounds Italian”)♠️ stilettoと相手が言うので「イタリア語っぽいね」と言っているだけ。
p126 評決は被疑者不在のままくだされる(Verdict, persons unknown)♠️ 試訳「(お馴染みの)評決、何者かによる殺人」インクエストの評決での決まり文句。
p127 裁判官は… 有罪を下しただろう(the jury would have made an end of….)♠️ インクエストなので裁判(有罪を決める場)ではない。死の原因を究明するのが目的。死因究明に付随して「誰かの行為で死に至った」という評決になる場合があるだけ。検死官は事前に助言はするが、陪審の評決を受け入れるのみで検死官には拒否権はない。試訳「陪審員は…に終わりを告げただろう」
p131 生命は実体であり、生命は真剣である。そして墓場がその終着点ではない(Life is real, life is earnest…. And the grave is not the goal)♠️ A Psalm of Life (1838) by Henry Wadsworth Longfellow
p131 ぼくは慰めが欲しい(I want comfort)♠️ 直前の詩の引用と関連あり? 調べつかず。
p135 わたしの髪は白くなっていないか(Is my hair white)♠️ 何かの引用? 調べつかず。
p137 AAAの遺書を担保にXXXポンドも借りている---何に使ったのでしょう(The £XXX he came in for under AAA’s will—he wanted it badly)♠️ 試訳「AAAの遺書により相続したXXXポンド---その金がひどく欲しかった」
(2022-12-4記載)
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(5) The Hottentot Venus「ホッテントット・ヴィーナス」: 評価7点
英国男性の偏見「女嫌い」が正直に披露され、初読時には「何これ?」と思ったけど、再読してみて、ああいかにも英国流で文字ヅラだけで受け取らず、底に流れる思惑を想像して楽しむ話なんだろう、と思いました。あれよあれよの展開が面白く。結末も非常によろしい。
ところでローマスは幾つぐらいなのかな?と思って読み返してみたら、初登場時に、フォーチュンの父親といっても良いくらい(was old enough to be his father, p20)と書かれてました。随分フォーチュン馴れ馴れしい…
p145 わたしはひとりの少女を愛す(I love a lassie)◆ミュージック・ホールのコメディアンHarry Lauder(1870-1950)の有名曲。訳注はちょっとズレてない?
p146 トーマス(Tormouth)◆デヴォンシャーにあるという設定の架空地名。トーケイ+プリマスな感じか?
p146 ばか騒ぎ(rag)
p147 妹に電話して(call on my sister)◆試訳「妹のところに行って」
p148 中年(middle-aged)
p157 いつにも増して専制的に(more masterful than ever)
p159 ヨットの登録リスト(Shearn’s Yacht List)◆Shearnは調べつかず
p164 デューシェス(Duchesse)◆ここは「公爵夫人」で良いのでは?
p167 それは、きみの良心の問題だ(That’s between you and your conscience)
p169 プリンシパルボーイ(principal boys)◆英国パントマイム(パント)の用語。参考Web“How British Pantomime Became Such a Holiday Tradition”
(2023-7-9記載)
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(6) The Business Minister「几帳面な殺人」: 評価7点
原題は「事業家大臣」というような意味か。どんどん転がってゆく展開と構成が良い。フォーチュン氏のペースに慣れると、この語り口がクセになる。
p180 ブーローニュ号(Boulogne boat)
p180 オペラの舟歌(the helmsman’s song from the opera)◆ Wagner: The Flying Dutchman "Mit Gewitter und Sturm"(Act 1)のことだろう。曲を特定出来る語を翻訳では反映して欲しい
p180 ヒーターが錫めっき(The heat … was tinned)◆暖房の熱気が缶詰状態だった、という事かな?
p181 四月十五日
p187 義弟が大蔵省に勤めていて(I have a brother-in-law in the Treasury)◆どうやらフォーチュンには妹がいるようだ。p147ではローマスから「君には姉も妹もいない… 未婚の(You have no sister—no maiden sister)」と言われている
p191 祖先のいない司教… メルキゼデク(that fellow in the Bible who had no ancestors—Melchizedek)◆ ヘブル人への書 7:3(文語訳)「父なく、母なく、系圖なく、齡の始なく、生命の終なく、神の子の如くにして限りなく祭司たり」
p191 コンソル公債(Consols)
p193 先生(Doctor)
p196 確かに!(Indeed!)◆ここは驚きや憤慨の感嘆詞だろう。へえ!まさか!本当に?など
p199 ウェデキント氏の遺作となった戯曲(the last published play of Herr Wedekind)
p203 シャツにネームを(have his linen marked)◆ワイシャツに自分の名前をあらかじめ入れておくのか?と思ったら、原文は「洗濯屋のマーク」のことだろう
p207 リミントン社(Rimington firm)◆調べつかず
p208 食事や掃除のサービスを受けられる家具つきマンション(service flats … and furnished)
p209 スノッドグラス… 急ぐなかれ、軽率になるなかれ(Mr. Snodgrass… No rash haste)
p210 使用人(servants)… 最近は人手不足(we’re short-handed)
p210 最後に来たのは二、三日前です(I should say some days)◆もっと曖昧な感じだろう。「数日前としか言えません」
p212 鍵というものを持たない人間(men go about without any keys)
p214 九サイズで幅は広め(About a nine and rather broad)◆靴のサイズ。UKメンズだと日本の27.5cm相当
p215 16 1/2というカラーのサイズ(16½ collars)◆42cm相当
p225 紙ばさみ(paper-clips)
p227 ショートマン(Shortman’s)◆調べつかず。架空?
p231 クリスチャンではない… 信仰心のない人間(not a Christian man—an unbeliever)
p232 ノースウェールズの住民のほとんどはランカシャー出身(North Wales is mostly Lancashire people)
p235 運転◆フォーチュンもスピードを出す乱暴運転派
(2023-7-14記載)

No.2 6点 nukkam
(2014/08/13 16:00登録)
(ネタバレなしです) もちろん異説もありますが一般的には英国の本格派推理小説の黄金時代は1920年に始まるとされています。この年にデビューしたのがアガサ・クリスティー、F・W・クロフツ、そしてH・C・ベイリー(1878-1961)です。興味深いのはクリスティーは長編短編を満遍なく書き、クロフツは長編中心、そしてベイリーは短編中心だったこと(後には長編も書くようになりますが1930年代になってからです)。日本におけるベイリーの知名度の低さはそこにも一因があったかもしれません。1920年発表の本書はレジナルド・フォーチュンシリーズの第1短編集で、後年作品と比べて未熟であるかのように紹介している文献もありますが個人的には決して捨てられるべき作品ではないと思います。フォーチュンを時には冷徹で分析的だが温かみとユーモアも持ち合わせている人間として描写しており、そこには後年デビューするヴァン・ダインのファイロ・ヴァンスやドロシー・L・セイヤーズのピーター・ウィムジー卿の人物像が重なります。ヴァン・ダインの某作品を先取りしたような結末の作品があったことも驚きでした。心理分析推理が印象的な中編「几帳面な殺人」、現代の犯罪にこそありそうな動機の「ある賭け」などは複雑なプロットを持っていて読み応えがあります。

No.1 5点 mini
(2009/03/06 10:10登録)
ホームズのライヴァルの一つで論創社版
もちろん創元文庫版も存在し、創元版のはまさに傑作選であり内容的には当然上だが、創元らしく例によって編集過剰なくせに詰めが甘いという見本
シリーズを代表する二編「黄色いなめくじ」「豪華なディナー」が同社の他のアンソロージー収録なので割愛されている
それでもフォーチュン氏ものは数が多いので一冊編めるだけの傑作は残っているからいいが、1冊としての意義ならこちらの論創社版だろう
なぜなら論創社版のは原著第1短編集をまるごと訳しただけだから、編集の仕事は大して入ってないがこれでいいんだよな

フォーチュン氏ものは雰囲気勝負で謎は薄味とか言われるが、ホームズのライヴァルとしては大同小異でしょ
むしろ気になったのは中後期作に比べてこの第一短編集は雰囲気が妙に明るい事
フォーチュン氏というとつい陰鬱な雰囲気を期待してしまうのだが案外と明るい雰囲気にがっかりで、これでは陰鬱さで他のライヴァルたちと一線を画すという特徴が出ていないではないか
それとフォーチュン氏が案外喜怒哀楽はあるが魅力的な人物像に描かれ過ぎているのも不満
個人的には無愛想な探偵役が好きなので
従来の評価では謎解きよりもフォーチュン氏のキャラ萌みたいに言われる事が多いシリーズだが、私の見方では探偵役のキャラは好きになれず、むしろ逆に意外と謎の方に魅力がある気がする

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