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ミステリの祭典

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琥珀の城の殺人

作家 篠田真由美
出版日1992年08月
平均点5.50点
書評数2人

No.2 6点 ミステリ初心者
(2020/11/20 22:11登録)
ネタバレをしています。

 1775年のハンガリーが舞台のミステリです。雰囲気が良く、それでいて全く読みづらくなく、時代も国の知識がなくてもすいすいページが進みます。
 クローズドサークルというわけではありませんが、一つの城で物語が完結するため、クローズドサークルばりの読みやすさがあります。
 他にも、当主の死亡、伯爵の後継者争い、遺産争い、過去の事件性のある出来事、伝説、手記パート、意外な犯人など、ミステリファン垂涎の要素がてんこ盛りです。
 私はほとんどわかりませんでした。ベアトリーチェが怪しいこと、アンドレアスが女性なこと以外はさっぱりです(笑)。
 
 以下不満点。
 不可能犯罪が2つあります。どちらも密室…?なのですが、これがいまいち(笑)。伯爵殺しは大多数の人間がかかわっており、イザーク殺しは助手の考えが一部当たってしまうほど他愛ないものです(ビリビリを使って~というのは魅力がありません(笑))。
 どんでん返しがあるのはよいことなのですが、どんでん返し系ミステリって多少無理をしないとどんでん返せないんですよね。あと、ミスリードも過剰になりがちです。まあそんなことを言っていてはアガサは読めませんが(笑)。

 全体的に読みやすく、物語面では楽しめましたが、推理小説としては好みとは違いました。
 

No.1 5点 Tetchy
(2009/11/08 01:56登録)
異色なのは18世紀の東ヨーロッパという日本ではなく異国、しかも現代ではなく中世を舞台にしている点だろう。この頃の価値観は現在とは全く違い、疑わしき者を公然と犯人に仕立て上げ、処刑する事が罷り通っていた時代である。
それはカーの『エドマンド・ゴッドフリー卿殺害事件』でも理不尽な裁判の様子が詳細に描かれており、冤罪などは当たり前だった。そういう風潮ゆえに成し得うる、このシチュエーション。
つまり身元不明の部外者を犯人に仕立て上げ、その無実を晴らすために探偵役を買って出る事になる状況はなかなかに斬新である。

その頃多く刊行された本格ミステリの例に洩れず、本書でも1つだけでなく、連続殺人事件が発生する。
吸血夫人バートリ・エルジェベトから引き継がれたという呪われし深紅の琥珀の首飾り、夜な夜な館の周囲を徘徊する亡き前妻の亡霊、消失した伯爵の死体と、甲冑を着た伯爵に襲われ、瀕死の重傷を負う侍従などなど、幻想味溢れる謎の応酬に作中に散りばめられた奇行と伝説めいた逸話が最後に謎の因子の1つ1つとなって表層からは見えなかった真のブリーセンエック伯爵家の姿、犯人解明、そしてさらに真犯人の解明、更に本書でしきりにその存在を謳われた琥珀の存在意義が溶け合って明らかに真相と、本格ミステリのコードに実に忠実に則った作品である。
しかし何故かそれらは上滑りで物語は流れていくように感じた。
やはり足りないのは「物語の力」だろう。人の心に物語を浸透させるフックのような物を感じなかった。
物語世界や登場人物たちも何となく一昔前の低迷期の少女マンガを読んでいるようだった。
そこまで云うと酷だろうか。

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